2013.07.18 書評

日本企業をまるごと
“下請け化”させた植民地経営

文: 後藤 直義,森川 潤 (『週刊ダイヤモンド』記者)

『アップル帝国の正体』 (後藤直義・森川潤 著)

 美しいバラには、安易に触れようとする者を刺す鋭いトゲが隠されているように、今をときめくアップルという巨大IT企業にも、関わった企業を悩ませる猛毒成分が含まれているのかも知れない――。いつからだろうか、そんな“毒リンゴ”のイメージが、私の頭の中を駆け巡るようになった。

 2010年冬、私は経済誌『週刊ダイヤモンド』の記者として、それまでほとんど知識のなかった家電業界の取材を担当することになった。

 当時すでにソニー、パナソニック、シャープの不振は伝えられていたものの、実際に日本を代表する家電メーカーの取材を始めてみると、そこには表向きに報道されているものとは異なる、信じがたい事態が広がっていることに愕然とした。

 長らく日本の“お家芸”だともてはやされ、数千億円という途方もない費用と、技術の粋を注ぎ込んで建てられた、日本全国に散らばる最先端工場の数々。それらが、アップルに向けてせっせと部品を供給する“下請け工場”へと、驚くようなスピードで変貌している現実があったのだ。

 かつて「世界の亀山モデル」として、液晶テレビ「AQUOS」で一世を風靡したシャープの亀山第1工場は、今やアップルのiPhone5の美しい液晶パネルを独占的に作るための専用工場になっていた。また最新のiPhone5のカメラの“眼”にあたる半導体チップは、すべてソニーが製造しており、九州にある2つの巨大工場は文字通り「リンゴ色」に染まっていた。

 さらに好奇心を駆り立てられたのは、数10社を超える日本の名門企業がアップルの下請けメーカーとなっているにもかかわらず、どんな場合でも、彼らがその事実を決して口外しないことだった。記者会見や決算会見はおろか、各社のホームページのどこを探しても「アップル」の文字はないのだ。

 取材を進めていくと、その謎が徐々に解けてくる。実はアップルは世界中の取引先メーカーに対して、巨額の違約金を含む固い「NDA(秘密保持契約)」にサインをさせ、徹底的な“口封じ”をしていたのだ。経営首脳すら、迂闊にアップルの名を出せなかった。

 なぜなら、彼らが秘密裏に築き上げてきたこのネットワークこそ、年間3兆円を超える、米国の石油会社やインフラ企業すらしのぐ驚異的な利益を生み出す競争力の源泉だったからだ。生かさず、殺さずという支配構造の下、アップルビジネスへの依存を深めて悩む日本企業の姿は私の心にグサリと刺さっていた。

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アップル帝国の正体
後藤直義 森川 潤・著

定価:1365円(税込) 発売日:2013年07月13日

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