2014.12.06 インタビュー・対談

世界中から注文が殺到する刺繍アーティスト・沖潤子の初作品集、ついに刊行!

聞き手: 「本の話」編集部

『PUNK』 (沖潤子 著)

フランス、イギリス、ドイツ、オランダ、スイス、アメリカ、台湾……各国の目利き達が絶賛し、作品のオファーが殺到中の刺繡アーティスト・沖潤子さん。おびただしい針目が古い布地や和紙の上を埋め尽くす作品は、狂気さえはらんでいるように見えます。ファン待望の初作品集の刊行にあたって、お話をうかがいました。英訳はこちら/ENGLISH(CLICK HERE)

『PUNK』 (沖潤子 著)

――沖さんが刺繡をはじめたのは2002年ということですが、沖さんは当時40歳目前です。失礼ながら遅いスタートといえるかもしれません。それまでは何をされていたのでしょうか?

 当時は会社に勤めていて、キャラクター商品の企画デザインから生産管理まで担当していました。いま思えば貴重な経験をさせてもらっていた日々でしたが、当時は自分の感覚と仕事上必要とされるデザインなどに距離があることが常に不満でした。

 40歳を目前にして自分を焚き付けるように「10年後どうしているか?」ということについて、「作品をつくって生活している」だとか「次の展覧会のことで頭が一杯である」などとノートに書いて過ごしながら、デザインのコンペに応募したり、油彩の公募展に出したり、ガラス工芸を習ってみたり。自分なりの表現方法をさがして、いつも力んでいたように思います。

 そんな時、洋裁をしていた亡き母が大事にしていた昔のリバティの布を、当時中学生だった私の娘がじょきじょき切って、ざくざく刺繡をして小さな手提げを作ってくれたんです。衝撃的なプレゼントでした。「ええーっあんな大事な布をこんな風に切って使っちゃったの!?」と。でも、思いに任せてただ作ってくれたものは迫力とエネルギーに満ちた塊で、「そうか、これでいいんだ。私もこうやって物をつくろう」と心が動きました。もっとシンプルにつくろうと思い至り、いちばん身近な針と糸で刺繡を始めました。

きれぎれの赤い布をつなげてそこに刺繡した作品「ざくろ」
©JUNKO OKI/BUNGEISHUNJU

――白地の布地や紙に白い糸でひたすら刺繡してある作品を、沖さんの象徴的な作品として挙げられる方も多いと聞きます。

 白糸刺繡のきっかけは、病院の待ち時間にソーイングセットの糸で刺したことだったのですよ(笑)。たまたま中に入っていたのが白い糸だけでしたので、白でしか刺せなかったんです。

 刺繡は作業がとてもシンプルで、すぐにはじめられます。私には、段取りが繁雑な制作は向いていない様です。針目を進める速度が自分にあっているんでしょうね。それに、糸が横道にそれても展開できるし、こんがらがった糸を切らずにそのまま使って針目にすることもできる。無限で、そして、戻らなくていい。そこに自分の居場所をみつけたような気がします。

白い和紙に白い針目の溶け合った作品「是々非々」

©JUNKO OKI/BUNGEISHUNJU

――刺繡とひとくちにいっても、沖さんの刺繡は、あたたかみのある手芸的な刺繡とは趣がちがいますね。

 手芸の刺繡は少しは勉強したのですが、例によって段取りが複雑な制作は無理で、すぐに自己流になってしまいました。アントニ・タピエス(編集部注:スペインの前衛芸術家。初期の頃はパウル・クレーの影響を受けたとされる画家だったが、次第に、絵の具に色々な素材を混ぜて紙だけでなく糸や絨毯を使って作品を作るようになった)の作品を知ってからは、きっちりと針目を守って刺してゆくいわゆる刺繡というものにとらわれる必要もないのか、と自由な気もちになって、表現の方法として、ただただ針目を重ねているという感じで針と糸を動かすようになりました。

【次ページ】

PUNK
沖潤子・著

定価:本体6,800円+税 発売日:2014年12月06日

詳しい内容はこちら


こちらもおすすめ
書評『明治宮殿のさんざめき』解説(2013.09.11)
インタビュー・対談心を豊かにするオールカラーの「見る図書館」「読む美術館」(2013.02.22)
インタビュー・対談歴史を語る絵画(2014.01.16)
書評彼が本を並べると、本棚が輝き始める(2013.02.06)