本の話

読者と作家を結ぶリボンのようなウェブメディア

キーワードで探す 閉じる
ギターと音楽を愛する人へ

ギターと音楽を愛する人へ

文:椎野 秀聰 (楽器設計家・ベスタクス株式会社社主)

『僕らが作ったギターの名器』 (椎野秀聰 著)


ジャンル : #趣味・実用

 楽器製造の主力が賃金の安いアジアに移行する以前、日本のギター生産技術は世界でもトップクラスだった。木工、塗装等に秀でた職人が各工場にいた。彼等の仕事がいかに世界を驚かせ、海外の著名ブランドのギターを支えていたか、実はこれまで語られる事がほとんどなかった。日本製ギターはコピーモデルばかりで、オリジナルなアイデアは海外にしかないと思い込んでいる人は、是非、一読願いたい。楽器製作とは、なかなかに奥が深いのだ。

  私は1947年生まれ。プレスリー、ベンチャーズでギターに目覚めた世代だ。そして20歳のときに、ジャズギタリスト、バーニー・ケッセルの弾く「ミスティ」のライブ演奏で、完全にギターにハマった。ヤマハ(日本楽器製造)勤務時代は、楽器販売の他に、後に「ポプコン」や「世界歌謡祭」となる音楽イベント、映画『ウッドストック』の試写会の企画に関わるなど、音楽がいつも身近にあった。恵まれた仕事環境にありながら数年でヤマハを退社したのは、大好きな楽器を自分で作りたくなったからだった。最初はヴァイオリン製作家をめざしてドイツへの留学を目論んだが、70年代初頭、ブームの兆しのあったギター製作の現場に請われて、この道を歩む事になった。

  最初に手がけたギターの設計・プロデュースは、グレコのEGシリーズ。ギタリスト成毛滋が弾いて空前のヒットとなった“エレキ”の開発以来、のべ80以上のギター、音響機材ブランドに関わることになる。

  その間、日本のギタープロショップのさきがけとなったESPの設立や、ギターのカスタマイズを提案したPACOのオープンなど、新たな試みにチャレンジしてきた。
  1977年、私が東京渋谷に設立した「椎野楽器設計事務所」は、世界で初めて「楽器設計」を社名にした会社だったと思う。楽器だけでなく、レコーディングやPA機材も含めたサウンドデザイン全般に広く関わってきた。社名をVestax(ベスタクス)と変えたころからは、DJ機材で、一躍、世界に知られるブランドになった。クラブカルチャー世代は「ベスタクス」と聞けば、ギターよりもDJ機器をまず思い浮かべるだろう。しかし、ギターの設計・プロデュースに興味を失っての路線転換ではない。納得のいくギター作りをしたいからこそ、私は手がけるギターを絞っていった。現在は、ジャズギターのディ・アンジェリコを製造プロデュースしている。ジョー・パス、チェット・アトキンス、ケニー・バレルなど歴代のギタリストが愛用した名門ギターの復活を、なぜ、日本人の私が託され作ることになったのか、初めて明かす話は本書に詳しく書いた。

  口絵のギター撮影にあたって、当時の仲間達に連絡をしたところ、思いがけず多くのギターが今も大切に使われている事がわかった。とても全部は紹介しきれないが、そのうちの13本を特別にカラーで掲載してもらった。帯掲載のギターMad Cat(マッドキャッツ)は、モーリスから発売され、後に後継器をプリンスが愛用し、その後も復刻モデルがたびたび登場しているギターのプロトタイプ、初号器だ。

  なぜ、人々は、ギターの音色に惹きつけられるのだろうか? 名器と呼ばれるギターは、どのような条件を備えているのだろうか? 私の考えるギターの音色の魅力、名器の条件を書いてみた。

  また、時計の針を過去に戻すだけでなく、楽器作りに情熱を燃やす次代の楽器製作者に書き遺すつもりで、これからのギター作りの歩むべき方向、日本のモノ作りのあり方にも言及した。

僕らが作ったギターの名器
椎野 秀聰・著

定価:893円(税込) 発売日:2010年09月16日

詳しい内容はこちら

プレゼント
  • 『もう明日が待っている』鈴木おさむ・著

    ただいまこちらの本をプレゼントしております。奮ってご応募ください。

    応募期間 2024/3/29~2024/4/5
    賞品 『もう明日が待っている』鈴木おさむ・著 5名様

    ※プレゼントの応募には、本の話メールマガジンの登録が必要です。

ページの先頭へ戻る