2015.08.14 書評

“浪花節”が光るスター研究者の人生

文: 山内 昌之,片山 杜秀,成毛 眞

『ネアンデルタール人は私たちと交配した』 (スヴァンテ・ペーボ 著/野中香方子 訳)

“浪花節”が光るスター研究者の人生

文藝春秋 1750円+税

片山 ネアンデルタール人は、現生人類、つまりホモ・サピエンスとは交わらずに絶滅したとされてきました。本書は題名通り、両者が交配していたという、従来の常識を覆す驚きの研究成果が示されています。

 著者である生物学者のペーボは、古代のDNAを復元するという困難な研究に取り組み、長年の試行錯誤の末、新技術を用いてネアンデルタール人の骨からDNAを取り出すことに成功しました。さらにそのDNAが、私たちホモ・サピエンスに数%共有されているという事実まで突き止めた。その過程を追った科学書でありながら、研究者の成功までを人間味たっぷりに描く古き良き筆致の自伝として楽しめます。

山内 古生物学という地味な分野ですが、宇宙開発に置き換えれば月面着陸に比肩する偉業だという表現がされていますね。そんな大発見をしながら著者の人生が変わっていくんですが、変化の随所に“浪花節”が現れるのが魅力です。

 例えば著者は、ベリストロームというノーベル賞を受賞した科学者の婚外子だったのですが、ネアンデルタール人のプロジェクトが最終段階に入る時期、著者は病に侵されます。そこで治療法を探しているうち、自分の命を救った薬に父の論文が関わっていることを知る。その偶然によって交流の少なかった父に思いを馳せながら、自分も子供にプロジェクトをしっかり最後まで見守らせるため「今死ぬわけにはいかないのだ」と奮い立つシーンなど読ませますよ。

成毛 ペーボの研究者としての歩みは『ニューヨーク・タイムズ』も評価していますね。これまで恐竜のDNAを発見したとか、琥珀の中に虫のDNAを見つけたとか、大々的に発表された話の大半がデタラメだった中、ペーボだけが馬鹿真面目に遺伝学研究をやっていて、彼は“考古学的遺伝子学の始祖”になると評されています。この分野ではヒーローです。その彼が凄いのは、ネアンデルタール人のDNAを調査している過程でデニソワ人という新たな人類まで発見してしまうんですね。デニソワ人については、昨年7月、カリフォルニア大のラスムス・ニールセン教授が『ネイチャー』誌に「チベット人が酸素濃度の低い高地生活に適応しているのはデニソワ人との異種交配の結果である可能性が高い」という論文を発表して世界的に注目を集めたのですが、本書を読んでそのバックグラウンドが非常に良くわかりました。

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