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『また、桜の国で』を高校生たちが選ぶまで

第4回 高校生直木賞全国大会 ルポ

文: 伊藤 氏貴 (高校生直木賞実行委員会・代表)
『また、桜の国で』を高校生たちが選ぶまで

 このままでは読書が死んでしまう――。

「高校生ゴンクール賞」設置を決めたのは、ときのゴンクール委員会委員長のこの一声だったという。権威あるゴンクール賞の候補作を高校生たちが読み、討議の末に一位を決めるという、フランスの高校の先生たちが自主的にはじめた読書推進運動に、委員会がお墨付きを与えてから三十年。彼の地ではすっかり定着し、発表の瞬間にはテレビ取材も来て、受賞作は話題となる。しかし、最大の影響は、なんといっても参加した高校生たちに対するものだ。ここでの体験は、彼らの一生の読書経験を左右すると言っていい。

 日本の若者の読書事情はどうだろうか。大学の文学部に勤める者としては、冒頭の言葉に同意せざるをえない。インターネットやSNSの発達で、活字そのものは日々目にしているし、書き込んでもいる。しかし、そこで飛び交っているのは細切れの「情報」であって、「読書」と言えるほどの厚みと深さを備えたものはない。「愛読書は?」という問に返ってくるのはラノベの類であり、つまり一般小説でなくてもかまわないのだ。漫画でもアニメでも映画でも、筋が同じであればなんでもよい。文学部の学生にしてこうなのだ。――このままでは読書は死んでしまう。

 おそらく高校の先生方も同じ思いをお持ちなのであろう、今年で第四回目となる高校生直木賞には、全国二十一校の参加があった。北は函館から南は福岡まで、約二百名の高校生が、直近一年間の直木賞の候補作計十一作を読み、各校での予選会を経て代表一名を選出し、全国大会に臨んだ。この取り組みが果たして読書の衰退に歯止めをかけることにいくばくかでも役に立つのか、それは以下の高校生たちの討議の内容を見て御判断いただきたい。

 本選会に上がったのは、十一作中の六作。そのなかで、予選会での順位は恩田陸『蜜蜂と遠雷』が一位だった。史上初となる直木賞・本屋大賞W受賞を達成したばかりの話題の一作はやはり高校生たちの心をも射止めていた。しかし討議の結果は……。まずは一作ずつ、抄録で高校生たちの議論を追ってみよう。

 

冲方丁『十二人の死にたい子どもたち』

 A 子どもたちそれぞれの家庭環境などの背景から死を望む内容で、現代の自分たちにとって必要な作品だ。

 B 人物は多いが、心理によって書き分けられている。展開もおもしろい。

 C 十二人いるのに各々個性が出ているが、生きることへのメッセージは薄い。

 D いやむしろ、死について軽く書いているところがいいのではないか。

 E 人物のキャラが際立っていて平等。人にとって死も平等。『蜜蜂と遠雷』の題材の音楽は読者を選ぶが、死はどんな高校生でも必ず考える。

 F 中高生でもわかる臨場感。リアリティ。二十代、三十代でもわかる。おもしろいのは議論の部分。全員一致というルール。

 G 人数が多いので、漫画や映画にした方がわかりやすいと思う。

 H 本が嫌いな人にも薦めやすい。
 

門井慶喜『家康、江戸を建てる』

 I 普段時代小説を読まない、歴史がわからない者でも十分読めた。

 J 東京の馴染みのある地名が出てきてその成り立ちを知るのはおもしろい。

 K 東京に住んでいない者にとってはわかりにくい。特に第一話の川の「流れを変える」のところ。だが、普段はスポットライトを当てられないような身分の低いものに焦点を当てている部分がおもしろい。

 D 「プロジェクトX」みたい。(笑)

 L 説明がわかりやすい。現在の尺度で物の説明をしてくれる。

 M 家康要素が薄いのが残念。最後に天守閣から江戸を見渡すシーンが印象的で、家康の信念が他の人物を通しても垣間見えはするが。

 E いや、だからこれは短編ではなくて最終的に家康に収斂する長編なんだよ。