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『銀翼のイカロス』期間限定無料公開【第3弾】

半沢直樹が帰ってきた! 出向先から銀行に復帰した半沢直樹は、破綻寸前の巨大航空会社を担当することに。半沢の前に立ちふさがる大臣と銀行上層部。

 不良債権が多かった旧Tの人材が重点的に債権管理サイドに配置されているのは合併以来の傾向で、審査部の主要ポジションは、旧T出身者が占めている。

 むろん曾根崎もそのひとりで、さらに帝国航空は、もともと旧Tが主要取引先として擁してきた特別な存在でもあった。

 いわば旧Tの威信がかかっていたといってもいい取引先を、半沢ら旧Sが幅を利かす営業第二部に移管することは、旧Tのメンツを潰すことに等しいのである。

 内藤は続ける。

「役員会では紀本さんが異論を口にされたんだが、緊急事態だといって頭取が押し切ってしまわれてね。ウチとしても、審査部さんの担当先を引き継ぐというのはどうかと思ったんだが、今回ばかりは致し方ない」

 紀本平八は、不良債権回収を主担当とする債権管理担当常務で、旧T人脈の有力者のひとりだ。そうした経緯についてはすでに聞き知っているだろう曾根崎は、悔しそうに唇を噛むのみである。

 就任以来、行内融和に腐心してきた頭取の中野渡謙が、暗黙の領分に踏み込んでまで担当替えにこだわったのは、審査部の対応に相当の不信感と苛立ちがあったことの表れとも取れる。

「営業第二部さんなら私ども以上にうまくやっていただけるとうかがっております。私どもとしては不本意ではありますが、銀行のためとあらばやむを得ません。大船に乗ったつもりで、後はお任せします」

 青白い額に血管を浮き立たせた曾根崎は、窮屈な作り笑いを浮かべてみせた。心にもないセリフには、「お前たちにできるのか」、という疑問と皮肉が入り混じっている。

「そういっていただけるとありがたい」

 曾根崎の思惑などまるで気にしていないふうに内藤は笑顔を見せ、「では早速なんだが、こちらの半沢君と引き継ぎに移ってもらえるだろうか。営業本部の応接室を空けてあるから、そこを使ってくれ」

 手回しのいい内藤は、手短に挨拶を切り上げた。

銀翼のイカロス池井戸 潤

定価:本体760円+税発売日:2017年09月05日