2017.11.30 別冊文藝春秋

『セルロイド』葉真中顕――立ち読み

文: 葉真中 顕

電子版16号

「別冊文藝春秋 電子版16号」(文藝春秋 編)

 こんな熊みたいな見た目のくせに、セスは日本のアニメ、特に美少女が出てくるアニメが、大好きだ。今着ているTシャツも『ぷちぽい』という、萌え系アニメのグッズだ。ファン人気ナンバーワンの“はるにゃ”という美少女キャラが、分厚い胸板に押し出されている。

「何よ、セス、私、今、仕事してるんですけど。それから、セブン様ってのやめてって前に言わなかったっけ?」

「オー、ソーでした。“ス”ツレイしました。ナナセカントク!」

 セスは、ぐいと顔を近づけてきて、前で手を合わせ、拝むような仕草をする。

「いや、近い。近いから」

 私は迫り来るモアイ像から逃げるように、身をのけぞらせる。

「ハ、ハ、ハ、カントクにお会いできて、コーエーです」

 セスは満面に笑みを浮かべた。彼の日本語は、ところどころイントネーションがおかしいものの、かなり流暢だ。

 セスはアニメ好きが高じ、アメリカの大学を出たあと日本にやってきて、アニメ作品の海外版権を扱うベンチャー企業『イースト・エイジア』を起こした。現在はアニメへの出資も行っており、『CAGE』の製作委員会にも名を連ねている。つまり関係者である。

 当たり前だが、お金がなければアニメはつくれない。深夜枠の三十分アニメ一本の制作費は概ね二~三千万円。一クールアニメの場合、これが十~十三話あるので、総制作費は少なくとも二億円以上、作品によっては三億円を超える。

 もちろんヒットしてソフトやグッズが売れればこのお金は回収できるし、それを上回る利益を出すことができる。けれど逆にコケてしまえば、大損だ。一社だけでこれを引き受けようとすれば、大博打になってしまう。

 そこで、複数の企業に少しずつ出資を募り、製作委員会を組織し、利益が出た場合は出資割合に準ずる形で配分する方式――製作委員会方式――がとられるようになった。現在、ほとんどのアニメ作品がこの製作委員会方式によってつくられており、『CAGE』も例外ではない。

 この方式の最大のメリットは、リスクが分散されるため、お金を集めやすくなることだ。一方、デメリットは、利害関係者が多くなるので、融通が利かなくなることだ。

『CAGE』の場合、企画を立ち上げた灰原さん以外にも、出資企業から派遣されたプロデューサーが五人もいて、セスもその一人だ。今日は打ち合わせに来たのだろう。

「オ、コレ、カントクのインタビューですネ」

 セスは目ざとく、デスクの上に置いてあったゲラを見つけた。

別冊文藝春秋 2017年11月号の内容紹介はこちら

こちらもおすすめ
ニュース「別冊文藝春秋」最新号(2017年9月号)、好評発売中です!(2017.09.26)
別冊文藝春秋 電子版16号文藝春秋・編

発売日:2017年10月20日