2017.11.30 別冊文藝春秋

『セルロイド』葉真中顕――立ち読み

文: 葉真中 顕

電子版16号

「別冊文藝春秋 電子版16号」(文藝春秋 編)

「エート、『やっぱり、爪痕を残したいですよね――』」

「ちょっと、勝手に読まないで」

「オー、スツレイしました!」

 セスはまた手を合わせて顔を近づけてくる。

「だから近いっての!」

「ハ、ハ、ハ」

 セスは笑いながら顔を遠ざけた。どうもこの外国人は、距離感がおかしい。

「それにしてモ、『CAGE』は、ホントにグレートですね。二話目までの放送をチェックして、改めてアニメがアニメであることの意味を、ディープに感じましタ」

 セスは目を閉じて、頭の中で反芻しているかのように続けた。

「イノセントな少女たち。どこか異界のような学園。日常描写の、ちょっとした動きにも、実に高い技術で考え抜かれた演出が施されていまス。最高に心地いい空間でス。けれど、ほんのわずかに、奇妙な不安も漂ってますネ。かすかな予感を忍ばせてますネ。そして、今夜、三話目のラストで、反転する世界。少女たちを待ち受ける過酷な運命……。ナナセカントク、あなたは、恐ろしい人でス」

 関係者であるセスは、今夜放送される三話目の内容を知っている。

「ジャンルを破壊することで新しいものをつくりだそうというカントクの試みは、キット、海外でも高く評価されますヨ」

 セスはぐっと親指を立てた。

「えっと、なんていうか、ありがとう」

 誉められるのは嬉しい。セスはヘンテコな外国人だけど、作品を観る目は信用できる。

 ただアニメが好きというだけでなく、きちんと作品を吟味し、海外に売り込んでいるからこそ、製作委員会に入れるほど会社を大きくできているのだ。

「今夜の放送後、どんな反応が返ってくるか、ボクも楽しみでス」

「そうだ、セス、今やってる作品で他に面白いの、ある?」

 ふと、気になっていることを尋ねてみた。

 現在、一クールに放送されるアニメ作品は、六十本以上。それらは競争相手とも言えるけれど、こっちには全部をチェックする余裕はない。

 そこいくとセスは、仕事柄、すべての作品を観ているらしい。

「ソーですねえ……、やっぱり『夏の絶対時間』と『ブルー・ブルー・ブルー』ですカネ」

 彼が挙げた二つの作品は、SNSでもときどき名前を見るので気にはなっていた。

「あ、あと『モノ』。アレ、すごいですヨ」

「『モノ』?」

 聞いたことのない作品だった。

別冊文藝春秋からうまれた本


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