2017.12.07 別冊文藝春秋

『レフトハンド・ブラザーフッド』知念実希人――立ち読み

文: 知念 実希人

電子版16号

「別冊文藝春秋 電子版16号」(文藝春秋 編)

「……本気で言っているのか?」

「ええ、どうすれば証明できますか?」

 岳士が挑発的に言うと、ヒロキは両脇の男たちに軽く目配せをした。

『この男がなんて答えるかわかっているよね?』海斗が囁いてくる。

 もちろんだ。岳士はヒロキに気づかれないように、かすかにあごを引いた。それと同時に、普段は消えている左手の感覚が戻ってくる。岳士は左の拳を握り込んだ。

「それじゃあ、この二人相手にして勝ってみろよ。そうしたら、お前をカズマの代わりに雇ってやる」

 ヒロキがそう言うや否や、二人の男たちがソファーから立ち上がろうとする。しかし、その前に岳士は動いていた。

 近くにいる男に素早く近づくと、左手でその肩を軽く押す。中腰の状態だった男は、倒れこむように再びソファーに腰掛けた。

 驚きの表情を浮かべて見上げてくる男に向かって、岳士は素早く右ストレートを打ち下ろす。狙いすました拳が、こするように男の顎先をとらえた。ちっ、という音とともに、男の顔が一瞬ぶれる。頭部に加わった遠心力が脳を揺らし、男の意識を根こそぎ刈り取った。

 目の前の男が、力なくソファーに崩れ落ちるのを確認したとき、『後ろ!』という海斗の声が響いた。

「分かってるよ」

 反射的に答えながら、岳士は振り返る。もう一人の男が、テーブルに置いてあったシャンパンのボトルを振り上げて襲い掛かってきていた。

 岳士は左の腕を上げて頭をガードする。甲高い音が響き、岳士の前腕に叩きつけられたガラス瓶が砕け散った。

「つっ!」

 苦痛の声が漏れる。見ると、腕に切り傷が走り、そこから血が滲んでいた。割れた瓶で切れたらしい。岳士は小さく舌打ちをすると、後ろ足で床を蹴って男との間合いを一気に詰めた。

 割れた瓶を再び振り上げた男の懐に潜り込んだ岳士は、左腕をコンパクトに折り込みつつ、腰を勢いよく回転させる。左拳が男の肝臓に突き刺さった。手からこぼれた瓶が床で砕け、男は腹を押さえて膝をつく。その口からくぐもったうめき声とともに、シャンパンらしき液体が零れだした。

 一瞬で二人を無力化した岳士は、ファイティングポーズを解く。

『さすがだね』

「まあ、こんなもんだな」

 海斗に答えながら、岳士はヒロキに視線を向ける。そのとき、背後で扉が開いた。

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