レビュー

なぜ辞令はかくも不条理なのか――「組織と人間」を見つめる人事小説の傑作

『辞令』(高杉良 著)

文: 加藤 正文 (神戸新聞播磨報道センター長兼論説委員)
『辞令』(高杉良 著)

 高杉良の作品の魅力はよく練られた会話劇の妙にある。上司と部下、同僚同士、会長と社長、頭取と専務など設定はさまざまだが、地の文による場面の描写は抑えられ、ふんだんに展開される生々しいやりとりが臨場感を強める。読み進むと、今そこで交わされているように感じられ、一気に作品世界に引き込まれる。
 

「さっき林常務から内示がありました」

「そうだってねぇ」

 前島(宣伝部長)は、応接室のほうを手で示しながら、にこやかに返してきた。

(略)

「人事本部だと聞いたけど、羨(うらや)ましいねぇ」

 前島はぬけぬけと言った。

「本部付でラインにも入れてもらえないそうです。つまり左遷です。それでも羨ましいとおっしゃいますか」

「それは考え過ぎだよ。人事本部のような枢要(すうよう)な部門へ左遷で行かされるわけがないだろう。きみ勘違いしてるよ。わたしが代って行きたいくらいだ」

辞令高杉 良

定価:本体850円+税発売日:2017年11月09日