レビュー

英雄を一刀両断する数々の評言が、塩野七生の「女の肖像」を浮き彫りにする

『男の肖像』(塩野七生 著)

文: 楠木 建 (経営学者・一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授)
『男の肖像』(塩野七生 著)

 ペリクレス、アレクサンダー大王から織田信長を経てチャーチルまで、古今東西の14人の男の肖像。順に読み進めていくと、最後に15人目の肖像が浮かび上がってくる。それは「女の肖像」、塩野七生その人である。

 僕は歴史家でも作家でも文芸評論家でもない。競争戦略論という分野で商売と経営について考えるという仕事をしている。競争があるなかで、なぜ商売は儲かったり儲からなかったりするのか、その背後にある論理を考えるという、やたらに世俗的な学問である。

 競争の戦略とは何か。一言でいえば、他者との「違い」をつくるということになる。ただし、違いをつくるには2つの異なるアプローチがある。この区別が競争戦略の思考のカギとなる。

 ひとつは他者よりも「ベター」であるという違い、つまり特定の物差しを当てたときに認識される違いである。人間でいえば足の速さとか視力とか身長のように、ある尺度で比較したときに現れる程度問題としての差である。

 この種の違いは本質的な差別化にはなりえない。競争の中で大勢がベターになろうとする。ベストを目指してしのぎを削る。一時的にベターになれたとしても、いたちごっこになってしまう。違いの賞味期限が短くなる。顧客もはっきりと違いを認識しにくい。

 ベターではなく「ディファレント」、ここに戦略の本質がある。人間で言えば、男と女。両者の違いは程度問題ではない。「私はあなたよりも70%より男性です」、普通はこういうことはない(たまにはあるかもしれないが)。ディファレントであってこそ、競争の中で独自のポジション(立ち位置)をとることができる。

 塩野七生はまことにもってディファレントな作家である。

男の肖像塩野七生

定価:本体830円+税発売日:2017年11月09日