2018.01.25 別冊文藝春秋

『セルロイド』葉真中顕――立ち読み

文: 葉真中 顕

電子版17号

「別冊文藝春秋 電子版17号」(文藝春秋 編)

前回までのあらすじ

 カリスマ的な人気を誇るアニメーション監督・伊藤七瀬は、四年ぶりの新作『CAGE』の制作に取り組んでいた。七瀬は、自身の新たな代表作にするべくスタッフに発破をかけていた。しかし、七瀬のコンテの遅れ、度重なるリテイク(やり直し)に現場は疲労の色を濃くしていた。さらに最終回のコンテを変更しようとした七瀬は、スタッフから猛反対にあう。ただでさえコンテが遅れているのだ。業を煮やしたデスクの島田は、とにかく元の脚本に沿った最終回のコンテを描かせるため七瀬を缶詰にする。が、このままでは自分の納得のいく作品が作れないと思った七瀬は、缶詰部屋を抜け出し電車に飛び乗った。


11

 東京駅で山手線に乗り換えて、上野駅へ。そこで飛び乗った特急電車は、東京からぐんぐん遠ざかる。

 車窓の向こう、街の景色は飛ぶように流れてゆく。私はシートにもたれて、ぼんやりとそれを眺める。

 不意に電車がトンネルに入り、窓ガラスに、私の顔が映った。

 もともと、ルックスに自信がある方じゃないけれど、結構、酷い顔になっている気がする。

 まあ、昨日一睡もしていないもんね。

 やっぱ、何も言わずに出てきちゃったのはまずかったかな。逃げたと思われるよね・・・・・・。

 時計をしてないから正確な時間はわからないけれど、たぶんまだ八時前だ。次の駅で引き返せば、ぎりぎり誤魔化せるかもしれない。

 でも、それだとこの不本意なコンテで最終回をつくることになりそうだ。それは嫌だ、というより、怖い。このままでは『CAGE』が駄作になってしまいそうで。

 ポケットにしまった特急券に印字されている行き先は、私が生まれ育った地方都市で一番大きなターミナル駅だ。

 目的地はその駅から在来線とバスを乗り継いだ先にある私の聖域、ムクドリ山。会社を飛び出した時点で、あそこに行こうと決めていた。

 私の創作の原点とも言える、あの場所に行けば、もっといいアイデアも出てきてくれる。そんな気がしたのだ。

「プチラブ、ラビット、メタモルフォーゼ!」

別冊文藝春秋からうまれた本


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