2018.01.12 書評

イデオロギーには空爆できない――「イスラム国」のテロが終わらない理由

文: 池上 彰 (ジャーナリスト)

『「イスラム国」はよみがえる』(ロレッタ・ナポリオーニ 著)

『「イスラム国」はよみがえる』(ロレッタ・ナポリオーニ 著)

 二〇一七年秋、中東からはIS=「イスラム国」の拠点が次々に陥落しつつあるというニュースが入ってきました。これに伴い、日本国内では、「イスラム国」のことがほとんど報道されなくなりました。もう問題は解決したのでしょうか。

 そうでないことは、ヨーロッパで、そしてアメリカで、一匹狼型のテロリストによるテロが続いていることで明らかでしょう。

 テロといえば爆弾テロを思い起こすかも知れませんが、最近各地で起きているテロは、盗んだり借りたりしたトラックを使って人混みに突っ込むという手法です。これは、誰でも安易に乗り出せるテロだけに、未然に防止することは困難です。

 今後、こうしたテロを少しでも減らすためには、「汝の敵を知る」ことが重要なのは、この書が指摘している通りです。一見、「イスラム国」が弱体化したかに見えるいまだからこそ、「イスラム国」とは何だったのかをきちんと総括しておかなくてはなりません。その点で、この書は最適でしょう。

 この本は二〇一五年一月に単行本『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』として世に出ました。それまで「イスラム国」を野蛮な若者たちによる乱暴狼藉を働く集団だと思い込んでいた人たちは、この本の内容に驚いたはずです。「イスラム国」の内実は、しっかりとした財政基盤を持ち、自爆テロの決算書も作成し、都市のインフラを整備し、新しい市場を建設。住民の心を掴む政策を実施していると著者は解き明かしました。驚くべきことではありませんか。「イスラム国」は、時代錯誤の封建国家ではなく、近代化された国家だったというのです。

 この「イスラム国」の過激思想は、ネットによって世界に拡散しています。「カリフ制」再興の夢は消えません。彼らはイデオロギーで戦っているのです。

 イデオロギーは空爆できません。彼らの思想と戦略を解き明かし、将来に備えること。それがいま求められています。

 リーマン・ショック以降、世界各地が陥った不況と、それに続くEUのユーロ危機は、世界各地で閉塞感を強めました。そんな現状を打ち破ってくれそうな新たな希望の星。先進国の一部の若者たちにとって、それが「イスラム国」という存在だったのでしょう。

 第二次世界大戦後、東西冷戦の中にあって、西側先進国の若者たちに魅力があったのは「社会主義」でした。社会主義イデオロギーの魅力に取りつかれた若者たちは、ソ連型でも中国型でもない「世界革命」を目指しました。


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「イスラム国」はよみがえるロレッタ・ナポリオーニ 村井章子訳

定価:本体900円+税発売日:2018年01月04日