2018.03.22 書評

低糖度の文体で描くプロVSプロの頭脳戦

文: 編集部

『限界点』(ジェフリー・ディーヴァー 著)

『限界点』(ジェフリー・ディーヴァー 著)

 本書はジェフリー・ディーヴァーのノンシリーズ長編Edge(2010)の全訳で、二〇一五年に小社より単行本で刊行されたものを、文庫化にあたり二分冊としたものです。ディーヴァーといえば名科学捜査官リンカーン・ライムや、《人間嘘発見器》キャサリン・ダンスのシリーズが有名ですが、日本での出世作となった『静寂の叫び』や『眠れぬイヴのために』など、シリーズ・キャラクターの登場しない作品も多数発表してきました。

 しかし、一九九七年のリンカーン・ライム・シリーズ第一作『ボーン・コレクター』でベストセラー作家としての地位を確固たるものにしてからは、年に一作、ライム・シリーズを刊行するようになります。二〇〇七年には、シリーズ第七作『ウォッチメイカー』で登場したキャサリン・ダンスを主人公とする『スリーピング・ドール』を発表、以降は、一年ごとにライム・シリーズとダンス・シリーズを交互に発表するのが基本線となります。『ボーン・コレクター』以降、本書『限界点』までのノンシリーズ作品は、『悪魔の涙』『監禁』『青い虚空』『獣たちの庭園』『追撃の森』。均(なら)せばおよそ二~三年に一編のペースです。

 注目すべきは、こうした単発作品において、ディーヴァーが“シリーズ作品ではできないこと”に挑んでいる点でしょう。『監禁』では、ごく平凡な男と狡知に長(た)けた誘拐犯との対決。『悪魔の涙』では筆跡鑑定術によるテロリスト探し。『青い虚空』ではサイバー犯罪に立ち向かうハッカー。『獣たちの庭園』では舞台がナチスドイツとなり、『追撃の森』では広大な森のなかでの二人組の殺し屋と二人組の女性の対決。いずれもライムやダンスが主人公では成立しにくい仕掛けの作品となっています。

 それは本書『限界点』でも同様です。まず最初に目を引くのが、主人公のボディガードの一人称「私」で書かれていることでしょう。なぜディーヴァーは一人称の語りを採用したのか――それはおそらく『限界点』が、主人公と敵の一対一のゲーム性に焦点を絞り込んだ作品だからだと思います。


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