- 2018.06.25
- 書評
舞台は、戦闘機開発の最前線! 高度なものづくりを描く<お仕事小説>
文:吉野 仁 (書評家)
『リヴィジョンA』(未須本有生 著)
出典 : #文春文庫
ジャンル :
#エンタメ・ミステリ
カバーの著者紹介にあるとおり、未須本有生は、東京大学工学部航空学科を卒業後、大手メーカーで航空機の設計に携わり、のちにフリーのデザイナーとして独立した経歴の持ち主である。すなわち主要登場人物である倉崎は、著者の分身と考えてもおかしくない。また『推定脅威』の文庫解説は作家の小森健太朗が執筆している。それによると、作者の未須本有生は「この作品は学生時代に小森くんとの交友がなかったら書けなかった」と述べたという。また解説中に「小説内の冴えた女性パートナーというのは、たぶん著者のひとつの理想と願望の反映だろう」という言葉もあった。
キャラクター設定の話でいえば、受賞後のインタビューで作者は、『推定脅威』を書きはじめようとした当初、沢本の上司である永田が主人公だったと語っている。だが謎を解明して行くにはあまりに朴訥すぎるというので、自身をモデルとした倉崎に変更した。しかし現役で航空機開発の内部にいる人間でないと行動範囲に限界があるため、最終的に沢本が主人公役に抜擢された、というのだ。こうして、好奇心旺盛で物怖じせず、誰からも愛される女性技術者の沢本由佳が物語の中心に躍り出た。主役でこそないものの、倉崎は沢本に対し、さまざまなアドバイスをしたり、企業内外の関係者を紹介したりするパートナーだ。物語論でいえば、主人公に助言や指導をする賢老人、〈メンター〉役を担っているとも言える。この関係がユニークだ。
これまで航空サスペンスといえば、もっぱら飛行パイロットをヒーローとしたものが圧倒的に多かった。だが、あえて若い女性の技術者を主人公にすえ、開発者側から事故原因の真相を追究するという展開は、きわめて斬新なものだった。
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