私は視線を落として自分の服装を確かめる。昨日と同じウインドブレーカーとTシャツ、ブルージーンズに黒のコンバースオールスター。髪はいつものようにてっぺんでお団子にまとめてるが、風でだいぶ乱れている。化粧はしてこなかった。しょうがない、最初に服装指定がなかったんだから。
「……とりあえず行って」
しかし店に到着してすぐに「やってしまった」と思った。通りに止まっているのは高級車のリムジンだ。何度か3DCGで創ったことがある――私の創ったリムジンは、大型カジノの駐車場に並ぶ違法取引中のマフィアやら金持ちやらの車の役や、爆風と共に吹き飛ぶ車その一その二の役を演じた。実物を爆破すると高いから。
その実物が道を塞いでいた。白手袋の運転手がそばに立ち、興味津々の通行人を冷たい視線でにらみ返す。タクシーの料金を払い、兄さんに励まされながら私は店の前に立った。
重たそうな木のドアには窓がないが、上の小さな明かり取りからは光が漏れて、営業ははじまっているらしいとわかった。朝八時からブランチというメニュー看板がある。私は息をひとつついてドアを開けた。最初の短い廊下の照明は落ち着いた橙色で、真っ白いタイルと美しい木目の木材を組み合わせたセンスのいい壁が奥まで伸びている。タクシーの兄さんが言うように確かに高級店らしく、奥から現れたウェイターは私を見てほんの一瞬だけ顔を強張らせた気がしたが、しかし追い出されはしなかった。
「ああ、来た来た」
案内されたのは奥の広々とした個室で、中央に大きな円卓がどんと置かれ、椅子がぐるりと囲んでいる。壁には暖炉まであった。椅子に座っているのは、リウとユージーン、いつの間に仕事を抜け出したのか、メグミとヒメネスもいる。
そして正面に見知らぬお爺さんがひとり。
この人は誰だろう? 品良く梳られた髪は真っ白だが、背筋はしゃんと伸び、肩幅が広く、年を感じさせない。ネイビーのタートルネックに、ツイードのジャケット。顔が小さくてまるで映画俳優みたいだ。晩年のポール・ニューマンや、最近ならクリストファー・プラマーを彷彿とさせる。私と目が合うと、にっこりと微笑んだ。部屋に入ったところで、壁に車椅子が寄せてあるのに気づく。
老人の真正面の席が空いており、左側をリウとユージーン、右側をメグミとヒメネスが固めている。つまりここ、老人の真正面が私の席だ。ウェイターが引いてくれた椅子に座ると、さっそくリウが口を開いた。
「ヴィヴ、紹介するよ。こちらがレクタングル社社長のチャールズ・リーヴさんだ」
「社長!?」
「しっ、声が大きいって」
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