あらすじ

永久3(1115)年、弥生のころ。白河法皇の希望で「曲水の宴」が行われようとしていた。池へいたる曲がりくねった小川の縁に座を占め、上流から流れてくる小舟が自らの前を通り過ぎないうちに盃を干し歌を託す「曲水の宴」。なかでも、多くの人々から感嘆の声が洩れたのが、白河法皇が詠んだ歌だった。

うつつとも夢ともいまだ分きかねて ただたしかなる君のやわ肌

今年、62歳になる白河法皇は新しい恋にとらわれていた。その相手の名は「璋子(たまこ)」。15歳のうら若き女性だった。恋愛におおらかなこの時代でも、ふたりの恋愛は宮廷を揺るがす「スキャンダル」であり、平安という貴族文化を灰にしてしまうほどの、激しい紅蓮の炎であった。

天上紅蓮

購入

昭和8年生 北海道生まれ。
札幌医科大学医学部卒業。元同大学整形外科学教室講師。医学博士。
45年「光と影」で第63回直木賞を受賞。 55年『遠き落日』『長崎ロシア遊女館』で 第14回吉川英治文学賞受賞。
『ダブル・ハート』など医学を材にとったもの、『静寂の声』『君も雛罌栗われも雛罌栗』などの評伝もの、『ひとひらの雪』『うたかた』『失楽園』『愛の流刑地』など男女の葛藤を描いたもの、そして定年退職した男性の悲哀を描いた『弧舟』など幅広く作品を発表している。『鈍感力』を初めとするエッセイを多数。札幌に渡辺淳一文学館がある。
天上紅蓮』では第72回文藝春秋読者賞を受賞。平成15年菊池寛賞受賞。