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この世はすべて“ごっこ”に過ぎない

この世はすべて“ごっこ”に過ぎない

「本の話」編集部

『クワイエットルームにようこそ』 (松尾スズキ 著)

出典 : #本の話
ジャンル : #小説

リアルと笑い

――閉鎖病棟に漂う重苦しい空気と、それを笑い飛ばしてしまうある種の軽さのようなものとのバランスは、シビアな空間なだけに難しかったかと思います。

松尾 人間って、二十四時間ずっと深刻にはなれないというところに、ぼくはリアルを感じるんです。本人の中にもそういう状態をギャグにしてしまう気持ちはどこかにあるだろうし。何となく自分の意識に逃げ場をつくっていくのが、人間のリアルな部分だと考えています。ぼくの書く作品というのはすべて、リアルなことがあった次の瞬間に笑いがくる。それが現実なんじゃないかなと思います。

――あまり笑ってはいけないところだとか、そういう状況だからこそ、小さなことが笑いや可笑しさにつながることは確かにありますね。

松尾 あるいは、本人はいたって深刻なんだけれども、客観的に見ると笑うしかないというような。

――閉鎖病棟の中には種類の違う病名の患者が出てきます。実際に取材などされたりしたのですか。

松尾 資料を読んだり、実際に閉鎖病棟に入っていた人の何人かに話を聞いたりして、自分で病院の見取り図を作ってみました。

――登場する人物の中には、少し変だけれども、一般の社会にもいるような人々が出てきます。ここで描かれた閉鎖病棟というのは世間とは全く別の空間ではなく、社会生活の一部を切り取ったもののようにも感じられるのですが。

松尾 メタファーというか、一つの社会、もっと言ってしまえば地球の縮図です。複数の人間が、逃げ場のない場所に入れられたとき、どんなことが起こるかということです。

――明日香の葛藤というのは、ある意味当然であり、普通のことであるとも言えます。結局、正常か異常かというのは、絶対的なものではなく、相対的なものだということですから。

松尾 例えば、ぼくもときどき自分は変だなと思うことがあります。ひとりで音楽を聴いているときに、気がついたら一生懸命、指揮をしていたりだとか。これだって、ひとりだからいいものの、公衆の面前でやっていたら変な人ですよ。そう考えると、所詮同じ人間が狭い空間の中で社会ごっこをやっているに過ぎないということも言えますよね。普通に服を着て、帽子をかぶって、人と話したりしているけど、自分が着ているものだって洋服ごっこだし、自分が書いた本を人が読んでいるのも、ある意味ごっこではないのかと。

――そのために締め切りを守って、あるいはそれを急き立てる編集者もごっこといえばごっこかもしれません(笑)。では、ごっこの外の世界には何があるのでしょう。

松尾 それはぼくらが感じている宇宙というものだと思います。つまり宇宙的な視野に立てば、ほとんどのことはごっこに過ぎないとも言えますよね。

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クワイエットルームにようこそ
松尾スズキ・著

定価:本体448円+税 発売日:2007年08月03日

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