書評

エンタメを通じて「正義とは何か」を問う作家真山仁の傑作

文: 関口 苑生 (文芸評論家)

『売国』 (真山仁 著)

 ただそこにひとつ問題があった。問題と言っていいのかどうか、この固体燃料ロケットの技術はそのまま大陸間弾道弾(ICBM)に応用できるのだった。するとどうなるか。日本の高い技術を狙って、各国が何かしらのアクションを仕掛けるようになっても決して不思議ではないだろう。いわんやアメリカにおいてをやだ。

 余談になるが、日本初のジェット旅客機MRJ(三菱リージョナルジェット)が開発されたとき、アメリカは設計図一式を提出しろと迫ったという。そんな理不尽な要求が、今でも現実に行なわれているのだ。これが軍事利用できるロケットとなると、裏でどんなことが起きているかはおよそ想像に難くない。

 本書で描かれるのは、まさにその裏側で密かに進行していく陰謀、謀略劇である。加えてそこに、日本の戦後史の隠された部分にもメスを入れ、戦後七十年にわたる政治の闇と〈恥部〉に触れていく。その恥部こそが、本書のタイトルとなっている「売国」なのだとする作者の主張は強烈だ。

 巻末に掲載されている主要参考文献一覧の中の一冊にも書かれてあるが、戦後、日本の政治家や大企業のトップの幾人かはアメリカから献金や報酬を受け、協力者となっていた(とその本の著者は断言し、実名も挙げている)。彼らは戦後の日本復興に多大な貢献もしただろうが、はたしてそれは真に日本の将来を思ってのことであったのか。一方で、ニッポンがアメリカに利益をもたらすように取り仕切っていたのではなかったか。そしてまた、こうした闇の関係は人間を替え、形を変えしながら、今でも脈々と続いているのではないか。

 真山仁は虚と実の狭間を縫うように、かつまた叩きつけるように、謀略の存在を描いていくのだった。そこで問うているのは、国家とは何か、主権とは何か、そしてもちろん正義とは何かである。

 本書に登場する人物のひとりが「国破れて正義あり」という言葉を座右の銘にしているエピソードがある。この言葉は、国が破れても正義を貫かなければならない、正義を貫く人がいれば、国は再生するという意味にほかならない。真山仁は、どこまでも正義にこだわり、正義のありようを憂える作家なのだなと改めて思う。

 最後に蛇足ではあるのだが、本書は『週刊文春』連載時よりも相当程度原稿枚数が減っている。これはより完全なる“商品”にするために、無駄な部分を削りに削った結果であった。真山仁がお手本にしたフォーサイスも同様の考えの持ち主で、時には最初に書いた原稿の半分近く削ることになった場合もあったそうだ。

 こんなところにも、律儀で、原点に忠実な真山仁の性格が表れているように思う。だからこそ、わたしは大好きなのだが。

 

     二〇一六年六月

売国真山仁

定価:本体720円+税発売日:2016年09月02日


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