インタビューほか

北村 薫×桜庭一樹×宮部みゆき ビブリオバトル「直木賞受賞作、私のこの“1冊”」

第150回記念芥川賞&直木賞FESTIVAL

ビブリオバトル2番手、桜庭一樹さん

――では、続きまして桜庭さん、お願いいたします。

桜庭 今朝、リハーサルしたら5分30秒かかったんですよ。ちょっと早口でやろうと思うんですけど、「時間切れになるかも、この人」というスリルもお楽しみいただけると思います(笑)。

――それでは、はい、スタートです!

桜庭 私がオススメするのは、『赤目四十八瀧心中未遂』。1998年の上半期、第119回の受賞作で、作者の車谷長吉さんは純文学作家の方です。この期は、芥川賞を受賞されたのが、エンターテインメント作家の花村萬月さんという少し変わった回でした。

 私なりの解釈で、ストーリーを説明させていただきます。主人公は、ごく普通に東京で暮らしていた20代後半の男性です。ちょっとしたボタンの掛け違いで会社を辞めてしまって、尼崎という彼にとっては異界、冥界に落ちていくという話で、ある種のダークファンタジーとして読める作品だと思います。

 その日暮らしの流れ者が多い、温度のない町、人間の皮をかぶった獣の町、主人公にとってここは異界だというふうに、車谷さんはお書きになっています。ここにいたるまで、主人公は下足番をやったり、料理屋の下働きをしながら旅をして、3年を経て、風呂敷1つで流れ着きます。そして、アパートの1室で、病気で死んだ動物の内臓を1本3円で串に刺すという内職をしています。

 しかし、この町に住む人々は生きることに必死なので、主人公こそが異世界から来たおかしな旅人に見えているんです。大学出のインテリでニーチェとかカフカを原書で読んだりとか、部屋に花を飾ったり詩を読んだりするので、この町にいる魔女のような女性は、「少女趣味な男で気持ち悪い」と言いますし、お姫様的な役割の女性は、「ウチらとは違う。ここでは生きていけん」と言います。全体に主人公の悩み事は、尼崎の人々からは「所詮インテリのたわけ事だ」というふうに思われています。

 さて、ここで異界の人々の説明をしますと、まず魔女が60近くの髪の薄い焼き鳥屋の女将です。その人がモツを串に刺す仕事をさせているんですけども、かつて自分は進駐軍相手のパンパンだったという経歴を主人公に聞かせます。それから、謎の少年がいます。入れ墨師の息子で、この人はお母さんがいないのですが、いなくなったお母さんの話を主人公に聞かせます。それから、お姫様の役をするのが、入れ墨師の男の彼女です。美人なんですけれどもちょっと暗くて、ブラウスから下着と入れ墨が透けているという女性。実は、この人に主人公は一目惚れをしてしまうのです。

【次ページ】世界が破滅するような恐怖と生きている実感


 こちらもおすすめ
インタビューほか公開対談 北方謙三×川上弘美 作家として書き続けること(2014.07.11)
インタビューほか公開対談 島田雅彦×桜木紫乃 小説の中の男と女(2014.07.04)
インタビューほか公開対談 辻村深月×円城 塔 小説で“事件”を描くとは(2014.06.27)
インタビューほか公開対談 綿矢りさ×道尾秀介 小説家は幸福な職業か?(2014.06.20)