インタビューほか

北村 薫×桜庭一樹×宮部みゆき ビブリオバトル「直木賞受賞作、私のこの“1冊”」

第150回記念芥川賞&直木賞FESTIVAL

世界が破滅するような恐怖と生きている実感

桜庭 主人公はこの世界の人に関わるまい、関わるまいと生きてるんですけども、それぞれが打ち明け話をした後、頼みごとにやってきます。魔女は、電話ボックスから5万円取ってきてくれ、と薬物の取引に巻き込みますし、少年は、紙飛行機を折ってくれ、と頼みます。入れ墨師は、銃が入った箱を預かってくれ、と言いに来ます。

 その頼み事を聞いてしまえばしまうほど、ズルズルと異界に引き込まれていって、最終的には、真打ちであるそのお姫様がやってきます。で、主人公はそのお姫様と肉体関係を持ってしまいますけれど、これはとても危険な事態です。異界の食べ物を口にしたらこの世に戻れなくなる、その食べ物の代わりに姫の肉体があります。闇の中で世界が破滅するような恐怖と生きている実感を同時に感じてしまって、また新たに、主人公は生き始めてしまいます。

 それが主人公の危機を招くようになりそうなところで、東京から助けがやってきます。かつての友人なのですけれども、この人は尼崎で見ると、インテリのカリカチュアで、リアルに生きていない人形のように主人公にはいまでは思えてしまいます。ただ、そのあと魔女が友人を見て、主人公はインテリの国に帰ったほうが幸せになると思って、わざとクビにしたりするんですね。さらに、「あのお姫様に関わっちゃいけない。あの人はお兄さんに売られてしまった人で、破滅が待ってる。このまま死ぬまでお客さんを取らされる人なので関わっちゃいけない」と言います。

 ところがそこにお姫さまから、駆け落ちしたいという手紙がきてしまいます。この手紙がこう、漢字が書けなくて、「昼」とか「駅」とかが平仮名になっているという手紙で、これを見た主人公はほだされて帰郷し辛くなってしまいます。で、本当はここから去りたいのですけれども、物語的にはここで1人で逃げると、実は元の世界には帰れないはずです。身代りに死ぬ人がいないと主人公が生還できないというのは、たとえば『古事記』だったり、外国の神話だったり聖書だったりでもあるんじゃないかと思います。その意味で、非常に古典的な話です。

「うちを連れて逃げてッ」とお姫様に頼まれて、2人は異界のさらに先の赤目四十八瀧という一種の死の世界、冥界をさまよいます。タイトルは心中未遂となっているように、どちらも、もしくは片方は死なずに済むお話です。お姫様が最後にどういう選択をしたのか、主人公は生きて帰ることができたのかというのは、これは皆さん、お読みになっていただければと思います。8秒余りました(笑)。何かを言い忘れたから間に合ったかのかな。何だろう。ああ・・・・。

――桜庭さんらしいと申しますか、この作品をお姫様との逃避行のファンタジーと読み解かれたプレゼンテーションでした。会場の方も、ご質問等ありましたら、遠慮なく――。

客席1 魔女の方が60歳で焼き鳥屋さんをやっているとおっしゃいましたが、異世界なのに焼き鳥屋があるというのは、どのような基準の世界なのでしょうか。

桜庭 異世界というのはたとえでして、東京で暮らしてた主人公がその町に行くと、いつも知っている町のようでいて異界なんだというような書き方がすごく上手にしてあるということなんですね。たとえば、雑貨屋さんに行くと、雑貨屋の女が急に生卵をシャッと飲むシーンがあったりとか、不気味なシーンがありまして、「この世だと思っていたけど、いつの間にか不思議な世界に来てしまった」みたいな、『世にも奇妙な物語』のような感じで、「あ、なんか違うところに僕はいるぞ」と思わせるのです。

 実は場所も普通のアパートですし、焼き鳥屋も本当の焼き鳥屋さんですし、女の人も別に普通の女の人なのですけれども、にもかかわらず、ずっと異世界にいる、東京には帰れないと思わせる書き方が本当に絶妙なんです。

客席2 桜庭先生が紹介してくれたこの本――北村先生のもそうでしたが、けっこう昔の作品だなという印象を持ったのですけれども、たとえば字や言葉遣いとかは、今読んでもわかるものでしょうか。

桜庭 車谷さんは、もしかするとわざと昔風の文章で書かれているかもしれないですけれど、物語性があるからどんどん先に読むことができます。だからこそ、純文学の方の作品にもかかわらす、直木賞受賞作となったのではないでしょうか。

北村 私のほうの「別れることはつらいけど」で申し上げますと、こういうパターンの物語がたくさん書かれるというのは、やっぱりそれが人間の1つの姿であり、いつの時代にも通じるものを持っているからだと思います。

 また、それぞれの文体というのがあります。多少古めかしい感じがするにしても、川口さんの文体からは、東京の下町が持っている当時の雰囲気が伝わってくるんですね。『赤目四十八瀧心中未遂』も、関西の独特の猥雑な雰囲気が文章からにじみ出てきます。優れた作家はその人独自の文体を持っていますから、その人が語るということに意味がありまして、ずいぶん昔に書かれた作品が今読めないということはないと、私は思います。『源氏物語』までいかなくても、江戸の頃の話でも今も面白かったりするものははいっぱいあります。結局、よいものは、ましてや型になるようなものは古びないのではないでしょうか。

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