インタビューほか

北村 薫×桜庭一樹×宮部みゆき ビブリオバトル「直木賞受賞作、私のこの“1冊”」

第150回記念芥川賞&直木賞FESTIVAL

ビブリオバトル、投票結果は…?

宮部 この作品のヒロインである柏木イクという女性は、昭和33年生まれ」です。昭和33年生まれの方、今日こちらにおいででしょうか。いぬ年ですね。私は姉がそうなので、すぐ思いあたりました。オビのコピーには、「いつも傍らに、犬…。」。確かにイクちゃんは、かわいらしい犬と、それから猫が1匹、大変印象的な形で登場しますが、彼らとともに生まれて、育って、中年の出口あたりまで、両親を順番に見送るところまで生きていくんですけど、その彼女の人生がこの1冊の中に描かれています。

 彼女がどの時代にどんなワンちゃんたちと、どんな友達と、どんな人たちと関わって、どんなふうに生きたのかということは、やっぱりもう読んでいただくしかありません。私はわりと本に感情移入しやすい人なので、1冊の本を読んで泣いたり笑ったりすることは本当にしばしばあります。この作品の中でも、2箇所、最初は大声で笑いながら、途中から声をあげて泣いてしまいました。それほど心を動かされました。

 ここに出てくる犬や猫たちは、困難なことの多い人生を生きていく私たちが、その人生の中で巡り合う、善きもの、温かなものの象徴です。決してペット小説ではありませんし、もしかしたら犬や猫がお嫌いな方にも、とても楽しんでいただけるはずです。そして、必ず再読したくなる小説です。どうぞこの冬の貴重な時間をこの「昭和の犬」のために……。

(ここで終了の音)ああ、オーバーしちゃった(笑)。

――それでは、質問等ございましたら……。

桜庭 作中に、人によってはいい話でも、人によっては怖い話がある、という会話をしているときに、「いい話ってちょっと怖いとこあるよね」というセリフが出てくるんですが、それがまさに私のこの本の印象でもあるんです。読む人によって、それぞれ違う印象を与えてくれる作品ですね。

宮部 私が、最初は笑っていたのに途中から泣いちゃった場面は、ヒロインが父親ににぎりめしを作れと命じられて、作っている最中に郵便物を見に行きなさいと言われて、困ってしまうところです。そこで、「言葉って通じないなあ」っていうことをイクがしみじみ考える。ここで、私はもう笑いながら泣いてしまいました。これはぜひ、じかに読んで確かめていただきたいです。

北村 どんな本でも、自分の立場で読むということですね。特にこの作品は、時の流れの中で成長して生きていく物語であるだけに、われわれ自身の人生のさまざまなところと微妙にどこかが重なったりするんですよね。

宮部 先ほど、作品に時代色が反映するという話がありましたが、「昭和」とタイトルについているけれども、決して昭和の人だけにしかわからない小説ではないと思います。川口松太郎さんの作品も、決して今の私たちに無縁なことが書かれているわけではありません。『赤目四十八瀧心中未遂』はダークファンタジーであり、『古事記』もそう。異界の冒険譚として読める。小説はもともとその存在そのものが時間にあまり左右されないことを、今日はすごく痛感いたしました。

――それでは、いよいよ投票に移らせていただきます。今のプレゼンを聞いたうえで、この本が読みたい、未読・既読にかかわらず、この本が読みたくなったという作品を1冊選んでいただればと思います。それで、お三方にもご自分以外の1冊にご投票いただきます。

 まず、『鶴八鶴次郎』、北村薫先生一番だという方、挙手をお願いします。――3名。

 次に「赤目四十八瀧心中未遂」、桜庭一樹さんに投票される方、挙手をお願いいたします。――13名。

 最後に、『昭和の犬』……37名。

 本日のチャンプ本は宮部みゆきさんの「昭和の犬」と決定させていただきます。宮部さん、おめでとうございます!

宮部 150回で一番新しいから、最初から私は得でしたね。

桜庭 でも、でも、でも、古い本も読んでほしい。ちょっと負け犬の遠吠え(笑)。昔の本も面白いから両方読んでくださいね。

(2014年3月1日「第150回記念芥川賞&直木賞FESTIVAL」丸ビル1階「マルキューブ」にて)


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