インタビューほか

〈対談〉『ぐるすべ』も実はパラレルなんです

「本の話」編集部

『ぐるぐるまわるすべり台』 (中村航 著)
『パラレル』 (長嶋有 著)

「パーフェクト」への志向性

中村航(なかむらこう)
1969年、岐阜県生まれ。2002年、「リレキショ」で文藝賞を受賞。その後発表した「夏休み」「ぐるぐるまわるすべり台」が連続して芥川賞候補作となる。本書には、初の書き下ろし「月に吠える」も収録されている。

中村 ところで『パラレル』の中の「僕」は、長嶋さんですよね。内容そのものというよりも、考え方や思考回路がそうなのかな。あと愛情というものを、すごく大切にしている感じがする。

長嶋 あ、それもっと大きい声で言ってください(笑)。

「ぐるすべ」では言い切りの強さが印象的でしたね。完璧であるものとか、調和に対する志向性の強さを感じます。例えば、黄金らせんの話で、1・618……は近似値に過ぎずという件(くだり)で、小数点以下がワーッと出てきて「黄金の一瞬を捕まえるには」とくる。つまり作中の「僕」は、<黄金の一瞬>を捕まえたくて、それを夢想するわけですね。

 他にも目玉丼を食べる時に「必要十分に美味しい目玉丼」、塾の教室長にコマ数を増やしてほしいとお願いする時の理由は「驚くほど完璧な理屈だった」。さらに、教室長の、生徒を怒髪天を衝く勢いで責める叱り方に対しては「パーフェクト」とくる。

 冒頭の「キャンパスという言葉の語感の良さは異常だと思う」に至っては「異常だと思う」という言葉自体が異常だよ、とすら思いますね。でも、その後すごく説得力のある説明が来るから思わず納得してしまう。そのへんの言葉の選び方というか、感覚は「本気かー」と思うんだけど、どうなんですか。

中村 うーん、本気、ですね。

長嶋有(ながしまゆう)
1972年、埼玉県生まれ。2001年、「サイドカーに犬」で文學界新人賞、02年には「猛スピードで母は」で芥川賞を受賞。本書は初の長篇となる。ブルボン小林の筆名でコラムニスト、肩甲の号で俳人としても活躍。

長嶋 そうか。そこに、爽やかなエンターテインメントに収まりきらない危険さがあるんですよ。

中村 僕は感動屋なのかもしれない。というよりも感動したがり屋ですね。だからある事象に対して「パーフェクト」みたいなことをいってみたくなるわけです。

長嶋 「リレキショ」の選評では村上春樹っぽいというようなことはいわれていましたよね。村上春樹さんもある種の素敵さに対して「パーフェクト」というようなことをいっている。でもどこが違うのかというと、これは穂村弘さんがいうところの「言葉の金利」にたとえるとわかりやすい。

 つまり金利10%時代の素敵さ、たとえば「四月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会う」ようなパーフェクトさを表現したのが村上春樹さんで、金利0%時代の仕事場の様子を「ラーメン屋の屋台のように無駄がない」というようなことに感動しているのが中村さんかもしれない。無駄がないことのたとえがラーメン屋の屋台かよ、みたいな。でもそれがすごくいいんですよね。そういった感覚が作品の随所に感じられた。

中村 ラーメンの屋台は一人完結生産の理想のレイアウトと言われているんですよ、実は。でも、それよりそろそろ『パラレル』の話をしましょう(笑)。

 冒頭で「銀座の美容院で髪を切る」とありますが、自分と元の奥さんが、もう別れているのに同じ人に切ってもらっているというシチュエーション、しかも美容師はそこに入ってこないところがまず面白いです。この後のエピソードにもすごく効いていて広がっていくんです。

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ぐるぐるまわるすべり台
中村航・著

定価:本体500円+税 発売日:2006年05月10日

詳しい内容はこちら

パラレル
長嶋有・著

定価:本体505円+税 発売日:2007年06月08日

詳しい内容はこちら


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