2014.07.18 ニュース

それぞれの人に風景や言葉や文化がある
柴崎友香さん 芥川賞受賞会見全文

7月17日、第151回芥川賞に柴崎友香さんの「春の庭」文學界6月号)が選ばれました。受賞決定直後に行なわれた記者会見の模様を、書き起こしでお伝えします。

柴崎友香さんは1973年大阪府生まれ。97年大阪府立大学総合科学部卒業。短編「レッド、イエロー、オレンジ、オレンジ、ブルー」99年文藝別冊8月号「J文学をより楽しむためのブックチャートBEST200」でデビュー。

東京は漱石の小説に描かれた街

司会者 それでは記者会見と、質疑応答に移らせていただきます。芥川賞の柴崎さん。どうぞ、おあがりください。

(一同拍手)

司会者 それでは柴崎さん、まず受賞のご感想をお願いします。

柴崎 今回は、こんな大きな賞をいただいて、本当にありがとうございます。まだ信じられないような心地なんですけれども、しっかりとこの賞を受け止めて、これから小説を書いていきたいと思います。今日は本当にありがとうございます。

司会者 では、質疑応答に移らせていただきます。

――ニコニコの高橋です。ご受賞おめでとうございます。

柴崎 ありがとうございます。

――今回、この(記者会見の)中継をしています、「ニコニコ動画」をご覧になったことはありますでしょうか。

柴崎 いえ……。あの。ないです……(申し訳なさそうに)。

――はい、ありがとうございます。(会場、笑) では、「ニコニコ動画」をご覧になっているユーザーから寄せられた質問を代読したいと思います。今回の作品の主人公、「太郎」という名前が非常に不思議に思えたんですが、(この)名前をつけた理由は何でしょうか。

柴崎 今回の「春の庭」という小説は、東京の街を描いた小説なんですけれど、私は夏目漱石が好きで、初めて東京へ来たときも、夏目漱石の小説に描かれていた街だということで、感動することがありまして。バスに乗っていて、「内幸町」とか、新潮社にいく時に「矢来町」っていう名前をきくと、「あ、漱石に出てきたところだ!」と思うほど、東京といえば夏目漱石っていうのがあって。なかでも、「草枕」と「彼岸過迄」という小説がとくに好きなんです。「彼岸過迄」のいちばん最初の短編が、東京を歩き回る話なんですけれど、その主人公が「敬太郎」という名前で、その敬太郎に1文字足りない、というところで、太郎という名前にしました。

電話を切ってしまったと身振りを交えて語る柴崎さん

――ありがとうございました。今日は(受賞の知らせを)どこで待ってましたか。受賞したとき、どんな状況でしたか。

柴崎 浅草にいました。最初は「アンヂェラス」という昔からある喫茶店にいて、次は「サンボア」というバーで、担当者と2人で待っていました。で、最初に電話がかかってきたとき、あわてて、切ってしまって、「あれ、切れた!」と。もう一度かかってきたとき、(携帯の画面を)見たら「拒否」と書いてあったので、かなりあせりました。さっきの(切った操作)で拒否になっていたらどうしようと、かなりあせったんですけども(笑)。

 今回で、芥川賞の候補になったのは4回目なんですけれども、本当にいただいたというのが、最初はなかなか、信じられなくて。でも、ニコニコ動画の中継を見てらっしゃる方が多いのか、(発表された)その直後から、どんどん(お祝いの)メールがきて。ああ、これは本当なんだっていう、実感がわいてきました。

――そのバーや喫茶店は、何かいわく因縁のあるところだったんですか。

柴崎 いえ、とくに……。今回、芥川賞では4回目、ほかの賞を入れると「待ち」をするのが9回目で、家で1人で待つとか、大人数で待つとか、今までいろんなパターンをやったので、(今回は)どうしようかなと。直前まで迷ったんですけれども、古い喫茶店とか、そういう雰囲気のあるところ、浅草っていう街も好きなので、あのへんなら、喫茶店とかバーも何軒かあるので、時間がかかっても、移動しながら待てるかなと。

――最後に1つ。今回の作品は、柴崎さんの好きなものが全部入っているような気がします。写真があり、映画があり、街がある。集大成というか、てんこ盛りという感じがします。それぞれ、それが好きな理由と、今回、そういうものを全部ぶち込んで書いてみた理由を教えてください。

柴崎 そうですね。最初に芥川賞候補になった「その街の今は」も、写真を見て、昔の街を想像するっていう小説だったんですけれども、本当に今回の小説は、写真だったり、映画だったり、街だったり、なにか空間的なことだったり、私が今まで書いてきたテーマとか要素が、本当に詰め込まれた小説だなと思っていて、最初から、意図して詰め込もう、全部入れて書こうと思ったわけではなくて、書いているうちに自然とそうなっていって、完成したときに、「ああ、これは今まで自分が書いてきたこと、集大成、と言うのはあれなんですけれども、集めたような小説だなと思って。でも、そこからまた一歩、ちょっと違う語り方というか、形を見出せたかなと思いました。

 それ(映画、写真、街など)をなぜ好きかと言うと、やっぱり、何でしょうね……。他人を感じる、ということでしょうか。自分ではない、誰かの気配であったり、リアリティであったり、そういうものを、ふとした瞬間に、この街を何年も前に、私と同じように歩いていたんだなとか、写真に写っている人が、確かにここに存在していたんだなとか。自分とまったく関係のないような人のことでも、ふとリアルに実感することができる瞬間というのが、写真だったり、街を歩いているときだったり、建物から感じたりするので。自分はやっぱり、そういう、関わりあうことがないかもしれないような人の存在を実感できる瞬間というのに、すごく心ひかれているんだと思います。

【次ページ】読者も巻き込まれていく「ゆらぎ」を書きたかった

春の庭

柴崎友香・著

定価:本体1,300円+税 発売日:2014年07月28日

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