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それぞれの人に風景や言葉や文化がある
柴崎友香さん 芥川賞受賞会見全文

読者も巻き込まれていく「ゆらぎ」を書きたかった

司会者 次の質問の方、その女性の方どうぞ。

――以前、「これまで書いて来て、夢をかなえたことはない」という発言をされていました。そういう心境に変化があったのか。今回受賞されたことが、今後書いていくうえでどういう意味をもつか、というのを教えていただけますか。

柴崎 夢をかなえる、というのはゴール的な意味(で発言したこと)だと思うんですけれど、今回、賞を頂いたことで、また新しいスタートに立てたっていう気持ちは、やっぱり変わらないです。本当にこういう大きな賞をいただいて、改めて書いていかないといけないと思うと同時に、すごく励まされるというか、背中を押されるような気持ちです。

司会者 次の質問、真ん中の女性の方。

――どうも、おめでとうございます。

柴崎 ありがとうございます。

――候補(に入ること)が多かったなかで、今回の候補入りは本当にうれしかったとおっしゃっていました。実際に、候補じゃなく受賞ということになって、いかがですか。

柴崎 まだ実感が……、受け止め切れていないところもあるんですけれど、でも本当にうれしいです、あの、今回が(候補入り)4回目で、前回が2010年なので、4年空いているんですけれど、その間にこの賞というものがすごく現実的なものになったというか。作家の友人でも、受賞した方(長嶋有氏)がいらっしゃいますし、遠くにある夢というものではなくて、実感のあるものに変わったなと思っています。

 それから今回、候補に決まったというのを見て、編集者の方だったり、友人だったり、本当にいろんな方から、「受賞するよう祈ってます」「獲ったらいいね」って、言っていただいて。そのことが何よりもうれしかったです。応援してくださっている方がこんなにいるのかと。ここ(記者会見の会場)にくる間にも、たくさんの方から連絡をいただいて。そういうふうに、私の小説を読んで下さっている方がいるということが、今日は何よりも実感できました。

――もう1つ。(選考会会場の)「新喜楽」で、高樹のぶ子さんが、最後のほうでお姉さんの人称に変わる、というか、人称のゆらぎがあって、とても文学的効果があると思うとおっしゃっていました。これは狙ってやられた?

柴崎 そうですね。やっぱり小説というのは、どういうふうに世界を認識するか、読む人が、今までと違うような感じ方ができたりとか、違う角度から見られるっていうことが、役割、おもしろさの1つだと思うんです。

 客観的な、ゆるぎない世界というのは、とらえることができないんじゃないか、いろんな人が見た世界を積み重ねていくことで、世界を把握する、認識していくしかないんじゃないかと。それを小説のかたちに表したいと思って、今回、後半の人称が変わるところは、どうしようか、迷いながら書いていたんですけれども、ただ、語り手が3人称のかたちで視点が変わるっていうだけではなくて、読み手じたいもそこに巻き込まれて、ゆらぐようなものができないかなと考えて書きました。

――ありがとうございました。

東京はいろんな場所から、いろんな背景をもったひとが集まる場所

司会者 そちらの男性の方。

――最初は主人公が標準語でしゃべっていて、お姉さんが出てくるところから、会話が大阪弁になります。最後のほうで、とても肉感的な会話がかわされています。それが非常に対照的で。ふたつの言葉を使えるというのは柴崎さんの武器なのかなと感じています。そのへんは考えられたのでしょうか。

柴崎 そうですね……。私自身、大阪から東京へ出てきて、もうすぐ9年になります。出てくる直前まで、一生大阪で暮らすつもりだったので、自分でも意外だったんですけども、東京はいろんな場所から、いろんな背景をもったひとが集まってきていて、私が大阪の風景だったり言葉だったり文化を持っているように、ほかの人の中にもそれぞれ、複数の場所があるんだなって感じて。それを小説の中に書いてみたいと思いました。

 太郎の中にも大阪と東京、ふたつの場所があるし、ほかの登場人物にも、それぞれの、それまで暮らしてきた場所だったり、あこがれの場所だったり、いろんな場所に思いをはせながら生きていくのが人間なのかな、ってことを考えながら書きました。

――「その街の今は」は大阪の話でしたが、芥川賞の候補に何度もあがってくるなかで、ずいぶん世界が複眼的で、複雑になってきたなと感じておりました。

柴崎 はい、ありがとうございます。「その街の今は」のときは、まだ1人だけの視点、小さな世界を細かく書いていきたいという気持ちだったんですけども、いまは時間的にも長いスパンで、空間的にももっと広く、いろんな人がその場所に出入りするような小説を書きたいと思っています。

戦後から現在までのちょうど真ん中に生まれた世代

司会者 それでは、真ん中の2列目の方。

――おめでとうございます。

柴崎 ありがとうございます。

――前回の候補とですね、今回の受賞作の間で、「わたしがいなかった街で」という、かなり冒険的な長編小説を書かれていました。あの小説では、非常に時事性とか、これまでの世界とうまく融合するというのをやってこられたと思います。今回の受賞作でも、その経験が生きていますか。

柴崎 そうですね。やっぱり1作ごとの経験が、書いている間に次の小説へ、次の小説を書けば、その経験の中で、今度はこういうやり方ができるんじゃないか、というのを常に考えたり、気づいたりすることはありますので、もちろん、経験が生きていると思います。

「わたしがいなかった街で」を書いた動機……もそうだったんですけれども、自分自身がちょうど40歳で、戦後から現在までのちょうど真ん中に生まれた世代なので、どちらのほうも見渡して、自分の世代ならではの書けることがあるんじゃないか、ということを、この何年かは強く思っていて、「春の庭」では、そこは全面には出ていないんですけど、家だったり、その家に流れてきた時間だったり、そういうものを背景として書いていきたいとは思っていました。

――もう1点、漱石の影響は、どんな形で出ていると思いますか?

柴崎 そうですね。漱石の小説っていうのは、物語と、会話と、漱石が社会に対して考えていることだったり、漢文が出てきたり、美術の話が出てきたり、それが分かれていなくて。別の話題だったり、過去の話をしながら現在の風景に移り変わったり……。そういうものが、同じ平面上に描かれていることが、一番影響を受けたと思っています。

これからも書き続けていかなくてはならない

司会者 それでは、そろそろ最後の質問をお願いします。

――きわめて落ち着いて、お答えになっているような。

柴崎 ああ、私、よく言われるんですけど、友達とかにも「落ち着いて、おだやかね」といわれるんですけど、内面では混乱しているタイプで。親しい友人がみたら、「いま、混乱しているな」と伝わるんじゃないかと思います(笑)。

――小説家的に、いまの(心理)状況を表すとしたら?

柴崎 えっ。今……は、白い空間がひろがっている感じで。

――われわれ(記者団)は存在していない感じでしょうか?(会場、笑)

柴崎 いえ、存在は、してるんですけど(笑)……間にちょっとこう、なにか空間がある感じです。そこを、なんでしょう。自分があわてて、そのへんを走り回っている感じです。

司会者 最後に一言、どうぞ。

柴崎 ほんとうに今回はありがとうございました。こうして、小説の仕事をはじめて15年ぐらいになるんですけれど、15年間、書き続けてこられたのは、やっぱり、読んでくださった方、仕事を依頼してくださった方がいて、それがあってこそ、書き続けられたと思っています。受賞ということは、これからも書き続けていかなくてはならないということだと思いますので、もっと、面白い小説を書いていきたいと思っています。今日は本当に、どうもありがとうございました。

(会場、拍手)

春の庭

柴崎友香・著

定価:本体1,300円+税 発売日:2014年07月28日

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