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【冒頭立ち読み】『辺境の思想 日本と香港から考える』(福嶋亮大 張 彧暋・著)#2

文: 福嶋亮大

本書のまえがきを2回にわけてお送りします。

『辺境の思想』(福嶋亮大 張 彧暋・著)

知的な散歩としての往復書簡

 日本では往復書簡はメジャーな出版形態ではありません。しかし、対談よりもじっくりと時間を使って相手の言葉を咀嚼しながら、思考を練り直せるという利点があります。残念ながら、昨今の日本の出版界はインスタントな対談本を乱発しがちです。だからこそ、地理的制約を超え、時間を費やしてお互いの思考に働きかけながら、「私」と「我々」を再創造していく──、そのようなセッションこそが真に生産的なコミュニケーションだという前提を改めて確認するべきでしょう。本書は往復書簡のもつ時間性を実り豊かなものとして差し出したいのです。

 と同時に、本書は決して厳格な本でもありません。我々はお互い束縛をつけず、自由な調子でやりとりすることで、ふつうの書籍や論文ではなかなか書くチャンスのない思いつきも気楽に語ろうとしています。それはちょっとした脱線も許容する、知的な散歩のようなものだと言えるでしょう。そもそも、知的なエクリチュール(書かれたもの)の形態は多様であってよいわけです。議論をむりやりに学術論文のように体系化するよりも、さまざまな話題を手紙の端々から自由に湧出させていく──、それが本書の基本的なスタイルになるはずです。より深く知りたい読者向けには書籍案内を注釈として入れることにしました。

 むろん、この種の一筋縄ではいかない企画を成立させるには、優秀な編集者の協力が欠かせません。文藝春秋の鳥嶋七実さんは僕たちの申し出を快諾し、即座に企画を通してくれました。その熱意と献身のおかげで、本書は無事に出港することができます。彼女はきっと我々を上手にナヴィゲートしてくれることでしょう。

二〇一六年一一月一〇日 東京にて  福嶋亮大



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定価:本体1,800円+税発売日:2018年06月01日