書評

死者に寄り添い、その言葉に耳を澄ますということ

文: 平松洋子 (エッセイスト)

『原爆供養塔 忘れられた遺骨の70年』(堀川惠子 著)

『原爆供養塔 忘れられた遺骨の70年』(堀川惠子 著)

 その日は抜けるような青空の広がる五月晴れで、ひと足先の初夏を思わせた。「原爆ドーム前」で路面電車を降り、平和記念公園内の北側を目指す。連休のまっただなか、地元の家族連れや観光客の姿でにぎわっており、ライブ演奏があたりに響くなごやかな昼下がりである。しかし、いま自分が歩いている足の下にはかつて市内有数の繁華街が広がっていたのだと思うと、複雑な感情に捕まって混乱してくる。

 原爆投下の照準とされた相生橋、連絡橋南詰近く。原爆の子の像が建ち、被爆した墓石が当時の地形のまま安置されている。そこからほど近く、緑の芝生に覆われた土盛りの小山が目に入ってくる。

 原爆供養塔である。鬱蒼と生い茂る木々に護られ、ふっくらと盛り上がる塚の頂に石塔が立つ。伏せたお椀に似た塚に向かい合うと、静寂がひたひたと押し寄せてきた。公園内の喧噪が、すうっと遠のく。この広島の墓を、佐伯敏子さんは身を削って生涯守り続けてきたのだ。そして一九九三年、著者が佐伯さんに出会ったのもこの場所なのだった。



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