書評

生きるという路上において、たった一人でぽつんと立っている迷い子たちの記

文: 中島らも (作家)

『天人唐草 自選作品集』(山岸凉子 著)

『天人唐草 自選作品集』(山岸凉子 著)

「夏の寓話」。ここまで読み解いていけば、もう何も言うことはないだろう。ここに登場する小さな少女は、「世界」そのものをすでにあらかじめ失ってしまっているのだ。まさに正真正銘、「迷っている」人である。


 つまりこの一冊は五人の迷い子たちの、痛々しい道行きをそれぞれに描いた作品集だと言える。途方に暮れた子どもたち、泣く術さえも知らない幼子たちの迷宮巡りの物語である。山岸涼子さんはこの子たちに何かの救いを与えるわけではない。つき放して淡々と迷い子たちの呆然自失を描写していく。解決などないままに、ざっくりと凍った断面を見せて物語は終わる。この姿勢は作り手としてとても正しい。冷酷? ちがう。そんなことでは全然ない。冷酷なのは「世界」である。その巨大な混沌を前に、自失し立ちすくんでいる子どもたちがいる。手をさしのべる術などない。作り手はペンを握っているのだ。このペンを放して、手をさしのべてしまったら、その瞬間に作品は消滅する。見ること、作り手に許されるのはそれだけだ。「まなざし」が唯一与えられたものだ。だから作者とは、神のごとく無力なものなのである。

 フィクション?

 フィクションだから何なりとして迷い子を家路につかせてやれとおっしゃるか。なるほど、そういうものが好きな人にはそれ用の作家がいる。僕がそうだ。山岸さんを選んだあなたが悪い。僕なら「迷い子」をどうさばくか。見せてあげましょう。七、八年前に書いたラジオ・コント。



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定価:本体780円+税発売日:2018年09月04日