書評

愛するということは、自分の可能性が開いていく人に巡りあうこと

文: 永田和宏 (歌人・細胞生物学者・京都産業大学教授)

『愛の顚末 』(梯久美子 著)

『愛の顚末』(梯久美子 著)

 梯久美子さんの『狂うひと――「死の棘」の妻・島尾ミホ』(新潮社)は、文字通り梯さんの代表作のひとつとなるであろう、衝撃的な一冊であった。未発表の原稿、日記、手紙など膨大な資料から、島尾敏雄の『死の棘』に隠された真実を掘り起こす。そこで明らかにされたのは、これまでの島尾文学の理解にまったく新しい光を投げかけるものだった。

 評伝というジャンルでは、ある作家の生涯を丹念に辿り、その時代のなかで、あるいは歴史のなかで作品がどのように位置づけられるかを検証するところに大きな意味があるが、梯さんが島尾敏雄・ミホ夫婦を対象として行った作業は、そのような〈位置づける〉という意味での評伝の範囲を遥かに越え、すでに私たちにとって古典的な位置にある『死の棘』を、新たな物語として提示したかのような印象さえもたらすことになった。梯さんは、この仕事によって読売文学賞、芸術選奨文部科学大臣賞、そして講談社ノンフィクション賞と三つの賞を同時に受賞することになったが、それは取りもなおさず、この仕事のインパクトを物語っているだろう。



こちらもおすすめ
書評あの作家の恋愛・結婚ってどうだったの?(2015.11.17)
書評戦後70年――今だからこそ掘り起こされるべき人間の記録(2015.08.02)
書評空襲警報下で「源氏物語」を読む。意外でリアルな戦時下の暮らし(2015.07.02)
書評大義とは何か――遺書でたどる昭和史決定版(2009.09.20)
愛の顚末梯 久美子

定価:本体720円+税発売日:2018年11月09日