インタビューほか

<香月夕花インタビュー> 自分の人生を取り戻す若者の物語

「オール讀物」編集部

『永遠の詩 (とわのうた)』

『永遠の詩』(香月夕花 著)

「水に立つ人」が選考委員に絶賛されオール讀物新人賞を受賞した香月夕花さんが、初の長編に挑んだ。

 主人公は、継母・希帆と関係を持ってしまい、そのことに耐えきれず実家を飛び出した元基。高校を卒業したばかりの彼に希帆は執着し、彼も誘惑を振り切れない。義母との恋、それも義母が悪女という“禁断の設定”だ。

「あえて、百人いたら九十九人が『ダメ』と言うような設定にしました。最近、ある社会の規範が絶対に正しいとする風潮がありますが、人と人の間のことに絶対はありませんから」

 実母を知らない元基は、心に欠落した感情を抱えながら、知人に偶然紹介されたガラス工芸作家・雨宮誠二のもとで、住み込みで働くことになる。

「長編を書くにあたって、師弟関係を書いてみたい気持ちがありました。というのも二年ほど前に、演出家の蜷川幸雄さんが亡くなって、弟子にあたる方々が号泣している姿をテレビで見て、教え、教えられる関係から受け取るものとは何なのか、考えてしまったんです。師匠の言葉がその人の中に入り込んで人生を変える。そこまで何かを与えてくれる人がいるなんて、羨ましいとも感じました。そんな思いから、雨宮がガラスを作り続ける背中をみて、元基が自分のコアな部分をんでいく物語に膨らんでいきました」

 元基は師匠の雨宮だけでなく、年上のカフェ店主ら、人生経験豊富な大人たちと触れあい、自分の居場所を探していく。その過程では、ガラス工芸というモチーフが、象徴的に使われている。

「ガラス工芸を使おうと思ったのは、ギャラリーで左藤玲朗さんの作品と出会ったのがきっかけですね。シンプルな器なんですが、まるで生き物のようにぎらぎら光っていた。ガラスは、まさに死と再生のモチーフ。熔解炉に砕いた古いガラスを入れてガラス種を作り、そこに命を吹き込むように息を入れて、新しいガラスが生まれる。そして、ガラスは古いものを叩き割らないと再生しない。元基も、繰り返し裏切りにあいながら立ち上がっていきますが、重ね合わせた部分はありますね」

 他人に与えられたものではなく、自分自身で人生の意味を探す元基の姿は、幅広い世代に訴えるものがある。

「何を支えに生きるべきか考えてしまう人は多い。元基もそういう人物ですが、成り行きでもガラスに出会って、自分のものにしていく。自分には何もないと思っている人でも、手元にあることを続けていれば、案外その先に何かが見つけ出せる。そんな人間の強さを感じ取ってもらえたら嬉しいです」


かつきゆか 一九七三年、大阪府出身。京都大学工学部卒業。二〇一三年「水に立つ人」で第九十三回オール讀物新人賞を受賞。一六年、受賞作を含む短編集『水に立つ人』を刊行。

こちらのインタビューが掲載されているオール讀物 12月号

2018年12月号 / 11月22日発売 / 定価980円(本体907円)
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