インタビューほか

青山文平インタビュー 脱稿までに2年。直木賞作家の新たなる代表作

『跳ぶ男』(青山文平 著)

青山文平インタビュー 脱稿までに2年。直木賞作家の新たなる代表作

『つまをめとらば』で直木賞を受賞し、『半席』が「おすすめ文庫王国2019」(本の雑誌社)で国内ミステリー部門第1位に選ばれた青山文平さん。2年ぶりとなる長編小説『跳ぶ男』が完成した。

『跳ぶ男』(青山文平)

 貧しい外様の国の藩主が、将軍に貸しをつくり、参勤交代と御手伝普請の免除を引き出して、藩政改革へつなげる──。それが、この小説の出発点のアイデアでした。どう貸しをつくるか。手がかりはありましたが、その手がかりだけで狙いを果たせるかとなるとたいへん厳しい。外様大名はたとえ大身といえども将軍と言葉を交わすどころか顔を見ることすらかなわなかったほどに隔絶された関係にあったからです。どういう仕掛けを組めば読者の了解を得られるのか。また、その仕掛けを組めたとして、主人公がそれを為したことを彼方の将軍にどう伝えるのか。いくら頭を巡らせてもこのふたつの壁を突破する見通しが立たず、いっときは執筆を断念しました。それでも、元々私はプロットを立てない書き手なので、とりあえず書き出すだけはしてみようと机に向かったら、望外の仕上がりの初回原稿が穫れた。で、これを無駄にしてなるものかと本腰を入れて連載に取り組んだのですが、一回一回がすこぶるタフで、結局、構想から脱稿まで二年近くが経ってしまいました。

──土地も金も水も米もない藤戸藩お抱えの道具役(能役者)の長男・屋島剛は、幼くして実母を亡くし、嫡男としての居場所を失った。三つ齢上の岩船保の手を借りながら、剛は独修で能に励む。保は、藤戸藩を「ちゃんとした墓参りができる国」にするため、藩校に上がり華々しく出頭していくが、ある事件で切腹を命じられてしまう。さらに藩主が急死し、剛が身代わりに立てられることに。そこには、藩の特殊な事情があった……。

 一作に約二年を要したとはいえ脱稿に漕ぎ着けることができたのは、主人公の十五歳の少年である剛に、友であり師である保の「ちゃんとした墓参りができる国」にしたいという想いを共有させたことと、やはり、仕掛けの素材として能を使わせてもらったからだと思います。剛の為した仕掛けは国の体質を強靭にするでしょうが、しかし、剛は藩政改革を目指したわけではない。遺体を川に流す「野墓」しか持ちえない台地の上の生国を、「ちゃんとした墓参りができる国」にしようとしたのです。この動機の切実さが物語を引っ張ってくれた。そして、能です。能という武家が育てたアートを媒介にすることによって、無理が無理でなくなっていった。疑問が生まれるたびに導いていただいた能楽師の川口晃平さんにはいくら感謝しても足りません。もしも、川口さんの導きがなかったら、この本は生まれえなかったでしょう。また、鎌倉能舞台を率いる中森貫太さん、能に造詣が深いエッセイストの関容子さんにも助けていただきました。この場を借りて、感謝を伝えさせていただきたいと思います。

 



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