書評

そびえ立つ世界最大の「壁」……「魔の山」に挑むクライマーの人間ドラマ

文: 市毛良枝 (俳優)

『大岩壁』(笹本稜平 著)

『大岩壁』(笹本稜平 著)

 失った仲間への思いと、し残したことを果たすため、再び挑む冬のナンガ・パルバットの岩壁。そこに突然参加を表明する俊樹の弟、倉本晴彦。事故当時、まだ高校生だった晴彦は、五年の間に人知れず力を蓄え、若きクライマーになっていた。

 はじめて人がこの山に挑んでから、初登頂を果たすまでの間に多くの遭難者を出したことで、別名、「魔の山」「人食い山」とも呼ばれるナンガ・パルバット。初登頂後も六十数年の間に登頂者は三百人強にすぎない、なかなか登らせてくれない山である。それに比べエベレストは、同じ一九五三年のエドモンド・ヒラリー卿とテンジン・ノルゲイによる初登頂以来、登頂者数は通算して七千人を超える。近年では、年間千人を超える人がベースキャンプを訪れ、六百から八百もの人が登頂するという。一般的な注目度の差もあるが、それだけ難易度に違いがあると言える。といって、エベレストが簡単だというわけではない。八千メートルを超える場所は、人の生存を限りなく脅かす神々の領域である。

大岩壁笹本稜平

定価:本体740円+税発売日:2019年05月09日


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