書評

そびえ立つ世界最大の「壁」……「魔の山」に挑むクライマーの人間ドラマ

文: 市毛良枝 (俳優)

『大岩壁』(笹本稜平 著)

『大岩壁』(笹本稜平 著)

 四十歳の頃、父が入院した病院の医師との縁で、偶然のように登った山。その初登山は、まるで神が仕組んだシナリオかと思うように楽しかった。自分にはないと思っていた能力を再認識させてもらい、インドア派がアウトドア派に大変身した。

「山が趣味」というと、「登山ですか? それとも、トレッキング程度ですか?」とよく聞かれる。登山は普通の人はやらないが、トレッキングならまあ誰でもできると思っての質問だろう。きつい順に、登山、トレッキング、ハイキング、ウォーキング、散歩と並べられているように思われるが、本来並べるものでもなく、トレッキング、ハイキングは時として、または国によっては同列であり、同義である。登山もトレッキングの上にあるわけでもない。トレッキングでも数千メートルの標高を超えることもあれば、険しい場所を乗り越えなければならないこともあり、登山がトレッキングに含まれる場合もある。となるとハイキングもピクニックのような軽いイメージではない。近年、登山のスタイルはどんどん多様化され、オリンピック競技になったスポーツクライミングと山岳登攀は、手足をフルに使って登る行為は似ているけれど、純粋にスポーツとしてみるか、山頂を目指す、岩を登る、など、目的のための手段として考えるかにより、かなり趣の違うものだ。

大岩壁笹本稜平

定価:本体740円+税発売日:2019年05月09日


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