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武田鉄矢が古希を越えても活躍し続ける秘訣とは? 五十歳から書き始めたノートを公開

武田鉄矢が古希を越えても活躍し続ける秘訣とは? 五十歳から書き始めたノートを公開

武田 鉄矢

『老いと学びの極意』(武田 鉄矢)

出典 : #文春新書
ジャンル : #ノンフィクション

『老いと学びの極意』(武田 鉄矢)

 何か判らぬことがあると気になる質です。若い時分は判らぬまま生きておりましたが、人生半ばを過ぎたあたりから、判らぬことが放って置けなくなりました。指先に見えない棘があるようで、喉に魚の小骨が刺さったようで、チクリと痛んだり、空咳を続けたりと、気になっていけません。そこで判らぬことあらば大学ノートに書き出してみることにしました。それが孔子の言うところの「天命を知る」あたりの年で。

 その五十歳の初めから「耳順う」「矩を踰ず」と年を重ねて、ノートを取り続け、もう十冊ばかりか。

 何か判らぬことあれば、先ず書きつけて、判るまで抱いております。

 それでヒントあれば、ヒントを書き込み、ついに解答を見つけた時は嬉しいものです。まさしくアルキメデスの「ユリイカ(わかった)」で、実に痛快です。その習慣のおかげか、悪癖の知ったかぶりがやっと治りました。判ったふりは苦しいものです。

 で、忘れもしない、そのノートの一番最初に置いた判らぬことこそ「分数の割り算」でした。小学四年生の算数でした。人生、判らぬことを遡れば十歳に行き着くとは……でももっと正直に言えば私は「分数の掛け算」も判っていません。人生のあの辺りから判ったふりを覚えたのでしょう。先ず、そこまで戻って考えてみたのです。

「分数の掛け算」の解き方は簡単で分母同士、分子同士を掛ければいい。「
  3
4
×
  2
3
」は「
  3×2
4×3
」。分母、分子で約分出来れば、答えは「
  1
2
」。しかし、この「掛ける」とは何だろう。
 掛け算は整数では判り易く、「2×2」なら「4」。二つが二つあるなら全部で「4」。ところがリンゴの半分とその半分の半分を掛けると、「
  1
2
×
  1
4
」で「
  1
8
」。

 何で掛けたのに小さくなるのだろう。「掛ける」とは膨らむことなのに……何故、分数では縮むのか、その上に「分数の割り算」は割る方をひっくり返して掛けなさいと担任の先生はそう仰る。これがサッパリ判らない十歳の私。

 私のような成績不振児は判らぬことがひとつなら耐えられるがふたつになるとガラーンとした頭がひどく重たく身動き出来なくなります。その授業で、ひたすらにその質問を誰かがしてくれることを願いましたが五十人ばかりのクラスは黒板にびっしり並んだ練習問題に追われて忙しく、皆、鉛筆でコツコツとノートに音をたてています。誰もが疑問を打ち捨てて、黙々とひっくり返して掛けています。

文春新書
老いと学びの極意
団塊世代の人生ノート
武田鉄矢

定価:935円(税込)発売日:2020年11月20日

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