50th 文春文庫 文春文庫は創刊50周年を迎えました 1974年6月に誕生した文春文庫 数多くの傑作、名作が愛され続けて50年 担当編集者、営業部員があらためて魅力を語る周年企画のダブルカバー本を紹介します!

  • 担当編集者が作家の決意を感じた1冊 『不機嫌な果実』の書影

    不機嫌な果実

    林 真理子

    「女の欲望」を描き切り、
    論争を巻き起こした問題作!

    当時渡辺淳一氏の「失楽園」が賛否囂々、話題の渦を巻き起こしていた。渡辺氏を敬愛する林真理子さんは〝ならば私は女の心の奥の奥を書いて、世間に衝撃を与えてみせる〟強い決意を僕に語った。さらなる「ときめき」を求め夫以外の男性を渡り歩く主人公麻也子は呟く。〝夫以外の男とのセックスは、どうしてこんなに楽しいのだろうか〟それは、女性の欲望の解放を謳う高らかな宣言であり、新しい時代の幕開けを告げる小説の誕生だった。

  • 担当編集者の忘れられない1冊 『花の鎖』の書影

    花の鎖

    湊 かなえ

    「物語で数独パズルをつくりたい」
    −『花の鎖』はここから始まった。

    3人の女性の物語を読み継ぐ先に突然現れる「思いがけない一枚の絵」。それは、湊さんが愛する山登りのように、山頂に達した者しか見ることのできない雄大で美しい景色。そして、「花」「登山」「きんつば」という著者の好きなアイテムが物語の鍵となっていきます。単行本刊行は東日本大震災直後でしたが、こういう時だからこそ読者と直接会いましょう」とサイン会をしてもらいました。当日は予想を超える盛況で、なんと本が足りなくなるほどでした。

  • 担当編集者である幸福を実感した1冊 『太陽の坐る場所』の書影

    太陽の坐る場所

    辻村深月

    これを読まずにはいられない、
    スクールカースト小説の金字塔!

    本作に登場する 〝 同級生たち 〟 の自意識と、自己評価と、クラス内での位置づけ。卒業から10年の間に変化した微妙な関係性。すべてが突き刺さるようにリアルで、私たちがなかなか言葉にできない苦しさや違和感をえぐるように的確に描写していく。辻村作品の力強さがよくわかる一冊です。
    高校時代の輝きと、社会に出てからの葛藤、そして、あがきー。
    胸に響かないわけがない、必読の書です!

  • 営業部員の人生を変えた1冊 『猫を抱いて象と泳ぐ』の書影

    猫を抱いて象と泳ぐ

    小川洋子

    コロナ禍の春に社会人になった私は、この本にずっと支えられてきました。

    編集者としてスポーツを追っていた日にも、営業部に異動して書店を巡っていた日にも、この本が手元にあることを何度心強く、あたたかく思ったかわかりません。こんなに強く美しく、哀しくも喜びに満ちた小説があるのだ。いつかこんな小説が生まれる場所で仕事をしたい。と強く感じた日の自分がそこにいるようです。この小説は私にとって人生を変えた一冊なのかもしれません。でもこれは、今の私を、そして未来の私を支え続けてくれる一冊でもあるのです。

  • 担当編集者の心を惹きつける1冊 『旅をする木』の書影

    旅をする木

    星野道夫

    何度でも、どこにいても、
    読みなおしたくなる。

    28年前に1度だけ星野さんに会って取材をしたことがある。「日本に来るのも楽しみだけれど、すぐアラスカに帰りたくなるんです」「最近は、アラスカの広さから深さに目が行くようになって」物静かに語る星野さんの目は澄んでいて、どこか遠くを見ていた。
    『旅をする木』は、星野さんが魅了されたアラスカの風や匂い、人々や動植物の息遣いを、リアルに感じさせてくれる。我々を惹きつけてやまない何かが、この本にはある。

  • 1番読まれている向田邦子の本 『父の詫び状』の書影

    父の詫び状

    向田邦子

    中学生の時に邦子さんに聞いた
    「このうちに生まれてどう思う?」

    私は四番目の末っ子で、父に怒られた回数は少なかったはず。それでも、不満には思っていました。中学生のとき、邦子さんに聞いたことがあるんです。「このうちに生まれてどう思う?」って。私以上に叱られていた姉なら、不満タラタラかなと思ったら、「私、このうちに生まれて幸せでした」って言ったの。「私たちが産まれてきたとき、お父さんからもお母さんからも、歓迎されたんだよ。こんな幸せなことないでしょ」と。私は目が覚めました。(向田和子)

  • 編集者が全身全霊でお薦めしたい1冊! 『クライマーズ・ハイ』の書影

    クライマーズ・ハイ

    横山秀夫

    「これこそが私の読みたかったものだ!」と心を撃ち抜かれました。

    編集も販売も広告も、対立する上層部の思惑も、家族に対してもあらゆる思いが渦巻き、熱量ハンパなく呑み込まれ、涙ぐんだり、思わず叫んだり。でもスッと心が澄みわたるシーンがある。仕事小説であり、家族小説であり、ミステリーでもあります。様々な局面で岐路に立たされる主人公・悠木から、自分もこんなふうに仕事に向き合いたい、人と向き合って繋がっていきたい、自分の信じる光を探り当てたいと、心を突き動かされました。

  • 担当編集者驚愕!これぞ予言小説 『後妻業』の書影

    後妻業

    黒川博行

    「まだ 世に出てないんやけど、
    こんな話があるんや」

    新作の構想を聞いたときに覚えた戦慄はいまだ忘れられない。証拠を見つけることが困難な〝ほぼ完全犯罪〟が実際に起きており、それが報じられる前に小説化する。犯人以外は全容を知らない手口が、著者の想像力で埋められていく様は圧巻の一言。欲望渦巻く人間模様で物語がドライブしていくのも黒川ワールドの真骨頂。そして出版から数週間後に類似事件が報道された。事件の犯人は小説のタイトルから「後妻業」の女、と名付けられた。

  • 担当編集者の老後の不安が消えた1冊! 『おひとりさまの老後』の書影

    おひとりさまの老後

    上野千鶴子

    おひとりさまで老後を過ごすのは、
    「かわいそう」でも「不幸」でもない。

    世の中には、老後の不安を煽るメッセージがあふれてます。けれども上野さんによると、不安の原因は、じつは解決できるとのこと。ノウハウと智恵があれば、友だちと交流したり、趣味や生きがいを楽しんだり、恋愛だってできるそう。体力の下り坂を受け入れながらも「人生の最後まで、自分らしく心地よく生きる」には。
    誰もが老いるし、誰もがおひとりさまになる可能性のある超高齢化大国ニッポンを生きるための必読書です。

  • 若手編集者の心を揺さぶった1冊! 『かわいそうだね?』の書影

    かわいそうだね?

    綿矢りさ

    登場人物の感情に身に覚えがありすぎて、心がギュッと締めつけられる。

    「かわいそうだね?」の主人公は、彼氏の家に元カノが居候するという珍事に遭遇。庇護欲がかきたてられる元カノと、一人でも生きていける自分。悩んだ末にとった行動は……。「亜美ちゃんは美人」の主人公は、美人すぎる女友達との関係に煩悶。誰からも愛される友達と、おまけ扱いの自分の差。けれど、彼女の苦悩の「その先」までを描いているのが本作のすごいところ。読み終えた後は、救われた気持ちにきっとなります。

  • 担当編集激推し!必読! 『テティスの逆鱗』の書影

    テティスの逆鱗

    唯川 恵

    美容整形に通いつめる四人。
    終わりなき欲望が行きつく先は─。

    「レーシック、怖がってたけどもっと早くやればよかった!」新作の相談をしている時に、唯川さんとそんな会話をしたのを再読して思い出しました。身体にメスを入れることへのそこはかとない罪悪感が、快感へとぐるりと転換した瞬間。『テティスの逆鱗』はそのハードルを超えてしまった女たちが、どこまでも見えないゴールをめざし続ける物語。改造するのが顔や身体であっても、それは確実に心につながっていて、だからこそ恐ろしいけれど震えるほど悲しいのです。

  • 担当編集者号泣!! 『銀漢の賦』の書影

    銀漢の賦

    葉室 麟

    藤沢周平の正統な後継者。
    これからも愛されて欲しい一冊。

    既に老いた男たちの憧憬の眼差しの清冽さにの涙がこぼれました。登場人物の剛直、清廉、内に秘めた少年のような純粋さは、まさに葉室さんご自身。よく仰っていた言葉は「負けたところからが人生」「人生も後半に差し掛かったとき、その悲哀を越えてゆく生き方があってほしい」。同年配の方には心強い友人のように、若い人には勝敗が長い時間には無効なのだと背中で教える先達の物語として、これからも愛されて欲しい一冊です。

  • 担当編集者が大興奮した1冊! 『蒲生邸事件 上』の書影 『蒲生邸事件 下』の書影

    蒲生邸事件 上・下

    宮部みゆき

    宮部ワールドの魅力満載。
    歴史探偵・半藤一利さんも感嘆!

    宮部みゆきさんの作品の中でも、最もチャレンジングな作品を文庫化できるんだ、と20年以上前に興奮したことを思い出す。この作品をどう表したらいいのだろう。
    SF? ファンタジー? 歴史ミステリー?
    はたまた宮部版“昭和史発掘”? 再読三読、そのたびに違う貌がみえてくる。二・二六事件。自分がそこにいたら、どうなるのか ─。現代を生きる主人公が、昭和11年のあの日に舞い降りる。徒手空拳の彼を動かすのは、作家の想像力だ。その凄みは、いまも変わらない。

  • 50周年企画はまだまだこれからも続きます。最高に面白くて、いつまでも心に残る担当編集者、営業部員のイチオシの1冊。どうぞお手に取ってみてください。