大島真寿美・著『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』

作品紹介

虚実の渦を作り出した、もう一人の近松がいた──

「妹背山婦女庭訓」や「本朝廿四孝」などを生んだ人形浄瑠璃作者、近松半二の生涯を描いた比類なき名作!

江戸時代、芝居小屋が立ち並ぶ大坂・道頓堀。大阪の儒学者・穂積以貫の次男として生まれた成章。末楽しみな賢い子供だったが、浄瑠璃好きの父に手をひかれて、芝居小屋に通い出してから、浄瑠璃の魅力に取り付かれる。近松門左衛門の硯を父からもらって、物書きの道へ進むことに。弟弟子に先を越され、人形遣いからは何度も書き直しをさせられ、それでも書かずにはおられなかった半二。著者の長年のテーマ「物語はどこから生まれてくるのか」が、義太夫の如き「語り」にのって、見事に結晶した長編小説。

筆の先から墨がしたたる。やがて、わしが文字になって溶けていく──

妹背山婦女庭訓魂結びとは?

『妹背山婦女庭訓』に登場するお三輪(写真提供:国立劇場)

歌舞伎の隆盛に押されていた、浄瑠璃の本拠地・竹本座を連日大入り満員にしたという、近松半二らの伝説の大ヒット作品。飛鳥の改新をモチーフとした時代王朝もので、帝位を奪おうとする謀反人の蘇我入鹿を倒すべく、中大兄皇子(後の天智天皇)のため力を尽くす藤原鎌足&淡海親子とその一派の活躍を描く。

雛鳥・久我之助(写真提供:国立劇場)

特に入鹿の横暴によって久我之助と雛鳥の恋人同士が命を落とす「ロミオとジュリエット」のような悲劇は、満開の吉野山の桜を背景にした「妹山背山の段」(歌舞伎では「吉野川の場」)として有名。さらに後半は求馬(実は藤原淡海)という男性に恋をした、橘姫(蘇我入鹿の妹)と酒屋のお三輪(おみわ)の三角関係を舞踊化した「道行恋苧環」、入鹿を倒すためにお三輪が犠牲となる「金殿の段」(歌舞伎では「三笠山御殿の場」)など、スペクタクルに満ちた舞台になっている。

2019年5月には15年ぶりの通し上演が実現。太夫、三味線、人形遣いの三位一体が総力を挙げてこの大作に挑む!

5月文楽公演「通し狂言 妹背山婦女庭訓」特設サイト

妹背山婦女庭訓特設サイト

妹山背山舞台写真(写真提供:国立劇場)

近松半二

江戸時代に大坂道頓堀で「竹本座」を興し、人形浄瑠璃(現在の文楽)の一時代を築いた近松門左衛門。その死後、儒学者の次男として享保10年(1725年)生まれた穂積成章は、二代目竹田出雲のもとで竹本座の座付き作者となり、門左衛門に私淑して「近松半二」と名乗るようになった。宝暦元年(1751年)『役行者大峰桜』の序を書いてデビュー、39歳で一人前の立作者となる。『本朝廿四孝』『傾城阿波の鳴門』、『妹背山婦女庭訓』『新版歌祭文』など、現在も文楽や歌舞伎で上演されるヒット作品を次々と発表し、人形浄瑠璃の中興の祖となった。遺作は天明3年(1783年)初演の『伊賀越道中双六』。

5月文楽公演『妹背山婦女庭訓』予告編【第一部】

5月文楽公演『妹背山婦女庭訓』予告編【第二部】

著者紹介

著者近影
©鈴木七絵

大島真寿美

おおしま・ますみ
1962年愛知県生まれ。92年「春の手品師」で文學界新人賞を受賞。2011年刊行の『ピエタ』(ポプラ文庫)は第9回本屋大賞第3位。『あなたの本当の人生は』(文春文庫)は2014年第152回直木賞の候補作に。映画化された『チョコリエッタ』(角川文庫)、NHKでドラマ化された『虹色天気雨』『ビターシュガー』(ともに小学館文庫)、『戦友の恋』(角川文庫)、『ツタよ、ツタ』(実業之日本社)、『モモコとうさぎ』(KADOKAWA)など著書多数。