レビュー

実録カイシャデイズ

『カイシャデイズ』 (山本幸久 著)

文: 山本 幸久 (作家)

 ぼくの紹介や履歴っていうとこに、〈内装会社を経て〉とつく場合があります。まあ、たしかに経ましたが、二年弱しかおりませんでした。入社して二年目の冬、ボーナスをいただいてやめたんです。なぜ、やめたかといえばですね、つまんなかったの。つらかったの。嫌でたまらなかったの。もともと内装に興味なかったし。文学部だったし。

 就職活動をしていたのはバブルの絶頂期、Aが三つしかない成績のうえに、ほんとに卒業できるの、というくらい単位数を残していたボンクラ学生にもかかわらず、採った内定は二十社をくだらなかったはず。一応ね、業種は広告に絞っていました。なんでかといえば、そういう時代だったんです。広告カッコイイ!っていう。ほんとすいません、ボンクラのうえに莫迦(ばか)で。

 ぼくが入った会社は広告と内装の二本立てでした。サークルの先輩がいて、会社訪問いくと、「面接で内装を希望するって言えば入れるから」って教えてもらって、そのとおり実行すると、見事内定。

 ところがですね。入社後、内装から広告へ異動になることはぜったいないと人事部のひとに告げられました。別段、先輩は嘘をついたわけではありません。ぼくがきかなかっただけ。しかもその先輩はぼくが入社する前後に、より大きな広告代理店へ転職していきました。

 まあ、だれに文句を言えるわけもなく、ぼくは黙々と内装の仕事をこなす日々を暮らすことになりました。

 なにをしていたかと言いますと現場監督です。上司や先輩に現場へ連れてかれ、図面渡されて、「完成するまでここにいるように」と命じられます。

「でもぼく図面なんか」

「読めなくていい。職人達がぜんぶやってくれる。彼らはきみがなにも知らない、なにもできない人間なのは重々承知だ。作業の邪魔にならないよう、隅っこで突っ立っていればいいから」

 そしてぼくひとり、現場に置いていかれます。極端に書きましたが、おおむねこんなカンジでした。なにもしなくていいって言われても、せめて格好だけでも、と図面を開いて、できあがったものと見比べもしましたが、なにがどうなっているかさっぱりわからない。そうやってうろついていると、作業中の職人に怒鳴られる始末。やむなく隅っこで小さく、いえ、もとからちっこいんですが、さらに身をすくめて、じっとしているより他ありません。

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カイシャデイズ
山本幸久・著

定価:本体657円+税 発売日:2011年03月10日

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