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異色のヒーロー、銀行マン 半沢直樹が日曜夜に大暴れ!

異色のヒーロー、銀行マン 半沢直樹が日曜夜に大暴れ!

「本の話」編集部

『オレたちバブル入行組』 『オレたち花のバブル組』『民王』 (池井戸潤 著)

出典 : #本の話
ジャンル : #エンタメ・ミステリ

――文春文庫既刊、池井戸潤さんの『オレたちバブル入行組』と『オレたち花のバブル組』がTBS日曜劇場(7月7日 夜9時~)で『半沢直樹(仮)』というタイトルでドラマ化されることになりました。銀行を舞台にした人間ドラマですが、TBS・ドラマ制作部、演出の福澤克雄さんの熱意でドラマ化が決まったそうですね。福澤さんは原作をお読みになったときにどこに一番魅かれたのでしょうか。

福澤 映像、ドラマの世界に長くいますが、忘れていた活劇感、主人公の躍動感があって、余計なものがなくストレートに物語が進むところが魅力です。普通のドラマはいろいろなものを詰め込んで豪華に見せようとしますが、このシリーズは銀行の中をひとつの世界としてシンプルに男たちを描き切っている。そこが非常に面白いんですね。文庫の一作目を読んで面白く、二作目はさらに面白さにはまり、三作目の『ロスジェネの逆襲』(ダイヤモンド社刊)では泣きました。僕たちが失っているものがそこにはあった。料理でもそうですが、シンプルなものほど難しいじゃないですか。僕は料理をちょっとやるんですが、卵かけごはん、ペペロンチーノ……簡単なものほど奥が深い。だけどしっかり作ると美味しさは倍増です。職業柄、本は読みますが途中でやめるのが多い中、池井戸先生の本は特別で、一気に読み終えてしまいます。本当は映像の人間が自分たちでもこういう物語をオリジナルで考え出さなければいけないんですが、この〈半沢直樹〉をドラマにして勉強させていただこうと思っています。

――最初にドラマ化の話があったときにどう思われましたか。

池井戸 映像の人は初め挨拶に来るときに名刺一枚で来る人が多いんです。企画書を持ってきてくれる人はいますが。福澤さんに最初にお会いしたとき、両手に大きな紙袋を持ってホテルのラウンジに現れたんです。何かなと思ったら、テーブルの上に本を積み上げた。僕の本を全部読んで持ってきたんですね。全部持ってきた人は初めてでした。そして、原作をください、というんです。僕が「あ、いいよ」って言ったら、まだ書いていない半沢が頭取になる分まで「全部ください」、と(笑)。ここまでする人はいないですね。本当に好きなんだなあと、熱意を感じました。

福澤 素晴らしい人に会うときは緊張しますよ。先生は慶應の先輩ですし、小説の主人公の半沢も慶應出身ですから。

池井戸 1986年1月15日、ラグビーの日本選手権決勝で福澤さんは慶應の5番だったじゃないですか。じつは僕はあの対トヨタ自動車との試合を国立競技場のスタンドで見ていました。慶應が日本一になった試合です。それから30年近くたって、まさかその試合で活躍した選手と一緒に仕事をするようになるとは思ってもみませんでしたね。

 この半沢直樹シリーズは、テレビドラマでは剣道のシーンがあるそうですが、言ってみればサラリーマンを主人公にしたチャンバラ小説なんですよ。活劇的な要素があって、悪人をバタバタと切り倒していく。福澤さんの仰る通り、単純明快な話です。脚本には基本的に口出ししません。台本を見ると直したくなるので、全てお任せしています。自分の作品でも、本になってから読むと直したくなるほどですから。

ドラマのあるべき姿を実現

――配役で主人公の半沢は堺雅人さんですね。

 

福澤 TBS60周年記念のドラマ「南極大陸」(2011)の演出をしていたとき、堺さんの演技を見て、役者としてすごい人だなと思ったんです。セリフのテンポがいいし感情表現はうまいし、芝居に対する姿勢もいい。だから本を読んでまず、堺さんとやりたいなと思った。でも、こんなこと言っていいのかわかりませんが、僕は信心深いので、相性をみる先生に相談しに行ったんです。そしたら池井戸先生との相性は完璧。堺さんは、この人しかいない! と太鼓判を押してくれました(笑)。

池井戸 じつはテレビ局との打ち合わせの前に、うちの事務所のマネージャーと、半沢役は堺雅人さんがいいんじゃないかと、偶然話していたんです。僕はめったにそういうことは言わないんですが。その直後、福澤さんから堺さんの名前を聞いて驚きましたね。ちなみに、壇蜜さんのキャスティングは、僕のリクエストではないですよ(笑)。

福澤 堺さんのキャスティングはプロデューサーとも、原作者ともぴったり意見があったんですね。ドラマの制作はまず役者ありきで、それにふさわしい作品を選んだり脚本を用意することが多い。どうしても視聴率重視の世界ですから。最初に原作が決まって、この本がやりたいから誰々を主人公にというパターンは意外に多くはありません。だからこの作品では、本が主役、それにあった配役を、というドラマのあるべき姿が実現できた。それにしても、本の世界を映像化するには難しいことがいろいろあります。小説の中の謎の男は映像では具体的にあらわさなければなりません。

池井戸 アプローチの仕方が全然違いますからね。小説は基本的には内面を描いて進んでいきます。逆に映像に負けるような場面は書かない。例えば爆破シーンのようなものは、いくら書き込んでも映像にかなわない。一方、ドラマで内面はなかなか映像化できないですから、まったく方法論が違います。だから福澤さんには本当に自由に作ってほしいですね。

福澤 ありがとうございます。

池井戸 その代わり、原作料は高いですよ(笑)。

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文春文庫
銀翼のイカロス
池井戸潤

定価:836円(税込)発売日:2017年09月05日

文春文庫
ロスジェネの逆襲
池井戸潤

定価:770円(税込)発売日:2015年09月02日

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