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真山仁、『売国』を語る

真山仁、『売国』を語る

「本の話」編集部


ジャンル : #エンタメ・ミステリ

――プロローグではその糸川博士が登場しますね。

 ええ。糸川博士が鎌倉の某有力者と会ったというエピソードはフィクションですが、1955年当時から「近い将来、ロケットの時代がくる。日本は世界に先駆けてロケット開発に取り組むべきだ。未踏の分野で世界一を目指さなければならない」と語っていたのは事実です。糸川博士は、戦前は陸軍の戦闘機の開発に携わった「飛行機屋」でした。戦後、ロケット産業の振興に日本の活路を見出して、ペンシルロケットというわずか23センチのロケット開発から始めて、日本の固体燃料ロケット開発の礎を築いた。エジソンや今でいったらスティーブ・ジョブズみたいな天才的な科学者でありプロデューサーですね。

 固体燃料の開発に携わっている方に話を伺うと、よく皆さん「日本は独自技術で世界を目指すべきだ」とおっしゃる。「糸川先生のDNA」が根付いているんです。

――ロケット開発に携わる多くの研究者に会ったそうですね。

 彼らに取材すると、みんなとても情熱的で意識が高いんです。将来は「ワープ」の研究をしたいと嬉しそうに夢を語る一方、実験や研究に没頭し、何日も徹夜を続けてデータをとり続けている。研究開発の予算などアメリカに比べればそれほど多くないのに、彼らがこれほど情熱を傾ける「宇宙」って何なんだろうと、すごく興味を惹かれましたね。

――そういう情熱は遙にも受け継がれているように感じます。一方で遙は夢を追い続けるばかりでなく、宇宙開発をめぐる事件にも巻き込まれていきます。

 あまり詳しくは言えませんが、宇宙はただひたすら研究して、「夢」を語るだけでいい場所でもない。今年6月、自民党が「宇宙庁」の創設を提言し、安全保障分野での宇宙の活用の必要性を説いたように、スパイ衛星やミサイルなど宇宙開発は軍事とも密接に関わっています。

 ある研究者は日本の固体燃料ロケットの制御技術は世界でもトップクラスで、鹿児島から打ち上げたロケットを、ブラジルでひらひら飛んでいる蝶のところまで正確に飛ばすことができると教えてくれました。固体燃料ロケットの構造はミサイルと非常によく似ていますから、これは、応用すれば非常に高度な大陸間弾道弾を開発するポテンシャルが日本にはあるということにもなります。遙は、夢を追いかける一方で、そういう「現実」にも直面します。

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単行本
売国
真山仁

定価:1,925円(税込)発売日:2014年10月30日

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