――今回の作品は、イギリス西端のペンザンスという街が舞台です。海辺の人気(ひとけ)のない街の雰囲気が、この小説の静謐で、心にじんわりしみ込んでくるような味わいとマッチしています。どういうきっかけで選ばれたのでしょうか?
よしもと 実は別の小説の取材でイギリスに行った時、目的地に行く途中で偶然立ち寄っただけなんです。特別な観光地というわけでもなく、すべてが中途半端な場所。でも、街全体に幽霊が出そうな妖気が漂っている。ちょうど、デヴィッド・リンチ監督のTVドラマに出てくる、ツインピークスみたいな感じでしょうか。これはもう、ここを舞台に1本書くしかないな、と思ったんです。
――主人公の「さっちゃん」は、40歳を目前にして離婚したばかり。いとこで幼なじみのちどりと、そのペンザンスを旅した五日間が描かれます。
よしもと 「さっちゃん」は、若いころはちょっと遊んだりしたかもしれないけれど、就職したころにはバブルもとっくに終わった不況期で、それでも頑張って堅実に生きてきた。それが、人生半ばも過ぎて子どももいないのに離婚、しかも仕事まで失ってしまった。もう人生をやり直すことはできないんじゃないか、と挫折感を味わっているわけです。
でも、人間は誰しも自分で思っているほど一貫性のある人生を送っているわけじゃないと思うんです。いったんレールから外れたからおしまい、と思う必要はなくて、ひと休みしてまた始めればいい、とどこかで伝えたかったのかもしれません。
――片やちどりも、幼い頃に両親が離婚した後、親代わりに育ててくれた祖父母を相次いで亡くし、ひとりぼっちになってしまったばかり。淋しさを抱える2人は、旅の途中である特別な経験をします。
よしもと やっぱり土地のもつ力だと思うんですよ。ヘンなところに行くと、ヘンな体験をすることが多い、というのは私自身の実感でもあります。でも、それはけっして悪いことではなくて、そこを出た後は何事もなかったようにリセットされる。