不肖・宮嶋、自衛隊取材早や二十年、これほどイージーな体験談を読むのは初めてである。これも開かれた防衛省、愛される自衛隊広報の一環かとソバをたぐりながら読み進めているうちに……ドッカーンと内容はヘビーになってくるのである。
不肖・宮嶋の自衛隊取材といえば、海外はカンボジアから始まったPKO皆勤賞をはじめイラク戦争まで、内地においても幹部レンジャー(当時)訓練からF-15に搭乗しての戦闘訓練と、もうこの世に生まれてきたことを後悔するほど、それはシャレにならん現場ばかりであった。その結果、愛国者・自衛隊の良き理解者と自認してきたのである。しかし……それは一カメラマンとして、あくまで民間人として彼らと行動を共にしてきただけ。しょせんいわゆるシャバの人間の目を通してのもんやったのである。いくら強がってもしょせん民間人、傭兵並みの訓練を受けたといっても、決定的に欠けているものがあるのである。それは著者が訓練の最後に身につけた「自らの命より国民を守る使命感」である。それゆえ「生命(いのち)を守りたい」だの「政治生命をかけて……」などと気安く命という言葉を吐くお坊っちゃん政治家の言葉の、なんと軽く聞こえること。
さて著者の現在の肩書きは予備自衛官だが、いったん有事となり召集がかかったらもはや予備はなし、モノホンの警察官、自衛官と変わらん権限と責任を背負うのである。命令とあれば、著者がのた打ち回ってその操作を会得した六四式小銃を敵に向け、躊躇(ためら)うことなく引き金を引かなければいかんのである。
その覚悟が最初から著者にあった訳やなし、酔った勢いというのが正直な志望動機であり、当初はミーハーでチャランポランな現代無責任女性であったろう。しかし訓練を続けるうちに経験を積み、今まで意味すら知らなかった知識を学ぶうちに、上官から言われるまでもなく「実体」を悟っていく。泥まみれになって匍匐(ほふく)前進を続ける訓練だけで地獄であろう。しかも口ごたえする自由すら与えられないのである。訓練ですら地獄なのである。そしてホンモノの戦争がもっと地獄だということを、文字通り身に沁みて悟るのである。このへんがシャバっ気まみれの私らとちゃうところである。
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