2010.02.20 書評

「ほどほどの信用」がネットを成長させた

文: 蜷川 真夫 (「J-CASTニュース」発行人)

『ネットの炎上力』 (蜷川真夫 著)

  10年1月14日、Webサイト「MSN産経ニュース」に石川知裕衆院議員の元私設秘書、金沢敬氏の「小沢事務所証拠隠滅工作証言」の一部始終が掲載された。この日、自民党本部で開かれた勉強会で行った証言だが、8画面の長文である。しゃべったままを記録したものである。勉強会は月刊「文藝春秋」掲載の金沢証言を確かめ、国会での質問に役立てようという狙いだった。

  しかし、翌日の新聞、テレビは、この証言をほとんど報道しなかった。信憑性(しんぴょうせい)が確認できない、金沢氏は選挙で民主党公認を得られず、石川議員に恨みを抱いており、陥れるためのうそである可能性も十分だ。

  私は、新聞には掲載されないニュースの「素材」がネットに公表されることに大きな意義を感じている。金沢証言はその例だ。

  では、どういう場合にそうなるのか。そして、ネットメディアの掲載基準は新聞のそれとどこが違うのか。そのネットメディアの特性を書いたのが、文春新書『ネットの炎上力』である。

  私が発行人をつとめる「J-CASTニュース」は06年7月に創刊された。現在、サイトの読者は月間約500万人。ヤフーやグーグル、携帯にも配信をしているので、その読者を含めると1000万人は超える。創刊3年で急成長した。

  しかし、この稿をお読みの読者のどれほどがJ-CASTニュースをご存知だろうか。「毎日新聞変態記事事件」というネット世界ではよく知られた騒動があったが、これも知っている人は少ないだろう。    「変態記事事件」は08年6月、J-CASTの一報から始まった。毎日新聞社の英語版サイトに目も当てられない記事が5年近くも連載されていた。「六本木のレストランで豚を獣姦し、その後食べた」「息子の成績を上げるために性的関係をもつ母親」など、ひどい話が日本で起きている実話のように書かれていた。「国辱ものだ」「新聞社をつぶせ」など、大量の抗議コメントがヤフーやJ-CASTニュースに寄せられ、毎日新聞社は謝罪、英文サイトを閉鎖した。

  毎日新聞社へのデモや、広告主に電話で掲載を止めるように働きかける「電凸(でんとつ)」が組織された。ヤフーやグーグルで「毎日新聞」と検索すると、上位に「変態記事事件」関連の情報が表示された。

  しかし、これはあくまでもネット上の「事件」「騒動」であり、新聞やテレビで触れられることはほとんどなかった。

  J-CASTニュースは新聞社なのか、通信社なのか。ニュース素材は通信社から買っているのか。さまざまな質問を受ける。答えの一つは、週刊誌流の記事を毎日配信している、である。

ネットの炎上力
蜷川 真夫・著

定価:798円(税込) 発売日:2010年02月19日

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