――この11月に、雑誌『文學界』の約3年に亘る連載をまとめた、台湾が舞台の長篇小説『路(ルウ)』の単行本、そして80年代の大学生が主人公の青春小説『横道世之介』の文庫が発売されます。先ず、『路(ルウ)』についてですが、台湾新幹線の着工から完成までを軸に、日本人と台湾人の群像劇となっていますが、どのようなところからこの着想が生まれたのでしょうか。
吉田 10数年前に初めて台湾に行ったのですが、台北が不思議なほど自分にぴったり合うと感じました。気候もそうですし、人も、街並み、雰囲気……なぜこんなにしっくりくるのだろうと。今思うと、出身地の長崎にどこか似ているところがあったんですね。そこから興味を持って、何度も台湾に足を運ぶようになりました。
2004年に日本人の女性と台湾人の男性が屋台で出会う「台北迷路」という短篇を小説誌に書いた頃から、この話を組み立てていって大きな話、長篇にしたいと思うようになりました。日本人女性と台湾人男性というのはずっと考えていたのですが、何を題材に話を進めていくかという時に、台湾新幹線が浮かび上がってきました。台湾にいくたびに、いろいろ問題はありながらも着実にそれを乗り越えて開業に向かっていたのを目のあたりにしていたんです。
台湾人の日本びいきというか、僕が感じる日台関係の象徴的なものが台湾新幹線に重なりました。
――台湾に出向中の商社員の春香と、かつて運命的な出会いをした台湾人青年、そして日本にいる春香の恋人など、登場人物の恋の行方のほか、物語の要となるのが、台湾で生まれ、戦後日本に引き揚げてきた元技術者の老人ですね。
吉田 日本と台湾という空間だけでなく、昭和前期から平成の現在まで続く、時間の長さや奥行きも描きたかったんです。ひとりひとりの個人を深く掘り下げて書いていくことで、国の関係、時代も透けて見えてくるような小説にしたいと思いました。
――台湾の料理や風土のほか、せっかくのデートに両親がついてくるのは当然のことという習慣なども面白いですね。
吉田 僕の実体験でもあるんですが、台湾の知人と食事に行くとき、家族が一緒にということがわりとありました。台湾の人は若者でも家族で行動するようです。日本だと親孝行をするのって照れがあると思うんですが、向こうではこの「照れ」に対する考え方が健全というか、少し日本と違うような気がします。
――吉田さんは女性を描くのにも定評があり、性差を超えた書き手ですが、この小説では台湾人を1人称で描いています。今年の春に刊行された『太陽は動かない』(幻冬舎刊)でも、アジアを舞台にその土地や人を、国の「差」を超えて描かれていますが、難しさなどは感じられましたか?
吉田 今年の9月末に台湾に行ったとき、マルーン5というアメリカのバンドのライブに行ったんです。そこでボーカルが、その頃イギリスのチャートで1位になっていた韓国人歌手の曲をモノマネをして、それを見ている日本人の僕も現地の台湾人も同じように盛り上がりました。面白いときは笑い、悲しいときは泣く。国や性差は関係なく感じることは同じなんじゃないかと。小説でも、台湾人だったら、女性だったらこうするだろうと無理に考えたり、わからないことをわかったふりをして書いたりするのはやめようと思っています。
『路(ルウ)』が中国語に翻訳されたときに、台湾の人が読んだらどうなんだろうというのは、ちょっとどきどきしますが。
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