2013.09.27 書評

『複合大噴火』解説

文: 三上 岳彦 (帝京大学教授・首都大学東京名誉教授)

『複合大噴火〈新装版〉』 (上前淳一郎 著)

 一九九一年六月三日夕方、雲仙普賢岳が二百年ぶりに爆発し、火口から流れだした火砕流で地元の消防団員や報道関係者など四十三名が犠牲となった。この年の四月、フィリピンのピナツボ火山が六百年ぶりに噴火し、六月十五日には山頂部が吹き飛ぶ大噴火を起こした。噴煙の高さは成層圏の三十五キロメートル付近にまで達し、一九八二年のメキシコ、エルチチョン火山の噴火を上回る今世紀最大規模の大噴火となった。噴出物の量も、雲仙普賢岳の数百倍におよび、大量の火山灰と火砕流によって多くの家屋や田畑が被害を受け、四百人近くの尊い人命が奪われた。

 このニュースを聞いたとき、私は上前氏の「複合大噴火」を思い起こしていた。二百年前に起こった浅間、ラキの噴火とあまりにも状況が似ていたからである。無論、ラキはアイスランドの火山であり、フィリピンとは緯度も経度も大きく異なっている。雲仙普賢岳とピナツボ山は、同じ環太平洋火山帯に属しているが、浅間とラキは、成因的にもまったく異質の火山である。アイスランドは、ちょうど大西洋中央海嶺が島の真ん中を通っており、北アメリカプレートとユーラシアプレートが離れていく位置にあるため、地下からマグマが出てきやすい。一方、日本列島付近では、逆に太平洋プレートがユーラシアプレートの下に沈みこんでいるため、地震や火山噴火が多い。

 政治、社会状況にしても、二百年前とはまったく違っている。日本では飢饉という言葉そのものが死語と化しているし、西欧でもパンの値段が上がって暴動が起きるとは誰も考えないだろう。ピナツボ噴火による低温化のきざしも、噴火後一年たった現在、特にめだって現れてはいない。にもかかわらず、私には、いろいろな意味で、二百年前の浅間、ラキの複合噴火と今回の雲仙、ピナツボの同時噴火とがまったく無関係であるとも言い切れない気がするのである。ここでは、歴史気候学の立場から、火山噴火と気候変動がいかに関わっているかを解説してゆきたい。

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複合大噴火〈新装版〉
上前淳一郎・著

定価:590円+税 発売日:2013年09月03日

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