2014.05.14 書評

『サウンド・オブ・サイレンス』解説

文: 大矢 博子 (書評家)

『サウンド・オブ・サイレンス』 (五十嵐貴久 著)

 五十嵐貴久の小説は、刑事ものに青春もの、家族もの、コメディにサスペンスと実に幅広いが、その中に〈××年の○○〉というタイトルで括られる一群がある。『1985年の奇跡』『1995年のスモーク・オン・ザ・ウォーター』『2005年のロケットボーイズ』(いずれも双葉文庫)だ。

 これらに共通するのは、落ちこぼれがチームを組んで何かを成し遂げる、というモチーフである。順に、ヘタレな野球部が試合に、生活に倦んだ主婦がバンド活動に、出来の悪い工業高校生たちが小型人工衛星の製作に臨むという物語。『2005年のロケットボーイズ』の文庫解説にも書いたが、つまりは「ウォーターボーイズ」や「スウィングガールズ」といった映画を想像すればいい。そこには「ヘナチョコだってやればできる、努力すれば何かが変わる」という普遍のテーマがあった。

 本書『サウンド・オブ・サイレンス』もまた、困難と思われる目標――ガールズ・ヒップホップのダンスに挑むチームの物語である。が、前述の三作品とは大きな、そして決定的な違いがある。

 ガールズ・ヒップホップのダンスユニットを結成する三人の女性は、聾者なのである。

 もしあなたが今、「なるほど、障碍に負けずに頑張る女の子たちの感動物語か」と感じたとしたら、その気持ちを覚えておいていただきたい。そして本書を読んで、本当にそうか確かめて欲しい。

 本書の紹介の前に、ひとつお断りを。「聾者」あるいは「ろう」の定義はいろいろあると聞いているが、本稿では先天的失聴・中途失聴にかかわらず医学的な基準での最重度聴覚障碍を指すこととする。ご了承いただきたい。

 さて、物語の語り手は、高校に入学したばかりの綾瀬夏子。彼女は同じクラスの小野春香のことが気になっていた。真面目でおとなしい、けれどとっつきにくい。話しかけにくい。時として、感じが悪い。

 次第にクラスで孤立していく春香。実はそれは夏子が仕向けたことなのだが、誰も春香に話しかけなくなっても、本人は一向に気にしている様子がない。むしろそれを望んでいるようにすら見えた。

 実は春香は、耳が聞こえなかったのだ。そのことを学校では頑なに隠していた。普通に喋っているから気付かなかったが、春香はいつも話す相手の顔を見て、口の動きを読んでいたのである。

 ひょんなことでそれを知った夏子は、ちゃんと話さなくちゃ、謝らなくちゃと思い、下校時に彼女を追いかけようとする。ところがそこで夏子を待っていたのは、聾学校で春香と一緒だったという大森美紗だった。美紗は聞くことも話すこともできないが、ダンスが好きで、春香とダンスチームを組みたいと思っている。しかし何度誘っても断られるから、クラスメートの夏子に説得して欲しいと頼んできたのだが――。

 というのが本書の導入部分だ。物語はここから、さらにもうひとりの聾の女子大生・小林澪が加わり、三人でダンスに挑むことになる。夏子はマネージャーという形で、このユニットを支えていく。

 ここで注目していただきたいのは、本書の構成だ。物語は大きく三段階に分けられる。春香が自分の障碍を受け入れるまでの第一段階。三人で聾者のダンスコンテストに挑戦する第二段階。そして次のステップに進む第三段階である。ひとつずつ見ていこう。

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サウンド・オブ・サイレンス
五十嵐貴久・著

定価:680円+税 発売日:2014年05月09日

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