2014.04.18 インタビュー・対談

生と死とエロス、一瞬を描く

聞き手: 「本の話」編集部

『ソナチネ』 (小池真理子 著)

生と死とエロス、一瞬を描く

――『ソナチネ』は、2007年からの7年間、断続的に発表された7編を収録した短編集です。『無花果の森』で芸術選奨文部科学大臣賞を、『沈黙のひと』で吉川英治文学賞を受賞され、近年は長編で脚光を浴びることが多かった小池さんが短編の名手であることに改めて気づかされる、読み応え十分の1冊となりました。

小池 長編と短編、そしてもう1つ、身辺雑記にとどまらないエッセイ。私にとってこの3つは、どれが一番大切、ということではなく、すべてが自分を十全に表現するために、必要な方法です。とはいえ、書き方はそれぞれに違います。長編のときは、登場人物の人物造型はもちろんのこと、実際には小説の中に書かないその人のクセや嗜好品まで徹底的に考えて、物語の構成も最後まで組み立てます。登場人物がくっきりとした像を結び、自分に憑依しているような感じにならなければ書き出せない。一方短編の場合は、執筆の直前に私の心をよぎった何か、ひっかかった心理体験をもとに、結末を考えないままに書きはじめることが多いですね。5、60枚ほどを4、5日で仕上げてしまいます。長編が構成を練りに練った交響曲だとすると、短編は1つのモチーフをもとに作曲された室内楽やピアノの小曲、まさに『ソナチネ』のようなものかもしれません。

――では……たとえば冒頭の「鍵」という作品は、何がモチーフになったのか、こっそり教えていただけますか?

小池 あれは……、ある画家の個展のオープニングパーティーの会場で、テーブルを挟んで自分の夫とある女性がほんの一瞬見つめ合うのを目撃してしまった妻の心の揺れ、その0.1秒にも満たないシーンが最初に頭の中にありました。そういう1つの情景がきっかけになることもあれば、自宅のピアノでディアベリという作曲家のソナチネを久しぶりに弾いたときの感覚を形にしたのが表題作です。そうそう、音といえば、最後に収録されている『美代や』は、初夏の軽井沢の風物詩ともいえる、大きな大きな蝉の声に触発されて書いたんですよ。自分の息づかいすらかき消してしまうような、蝉の合唱に。

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ソナチネ
小池真理子・著

定価:1,400円+税 発売日:2014年04月09日

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