一冊の本を書き上げるに当たっては、時に不可思議な経緯が生ずることがある。たとえば、自らの企図とは別に、自分の外から不意に「風」が吹いてきたので、それに乗って書くことになってしまった――とでも言うような……。
『別册文藝春秋』に連載してきた『狩場最悪の航海記』を9月末に単行本として上梓することになったのだが、今回もまさにそんな「風」の動きを感じざるを得ない。
そもそも『狩場最悪の航海記』という小説は、連載開始の数年前に50枚ほど書きかけた原稿が元になっていた。それは、他社の子供向けジュブナイルの企画の依頼を受けて書き始めていたもので、スウィフトの『ガリヴァー旅行記』中の日本来訪の記述を拡大した冒険推理の続編を目指した作品だった。ところが、スウィフトの偽書として書き出してみると、いろいろ不都合・不適切なことが生じてきた……つまり、スウィフトの原著の主眼である痛烈な諷刺や人間呪詛の念まで採り入れて書くとすると、やはり子供向けとしては難解なものになってしまうのではないか――という懸念が浮かんできたのである。
そこで、書きかけの原稿は断念、全く新たなアイディアから書き上げたのが、『古城駅の奥の奥』(講談社ノベルス)という作品だった。
その後、数年が経過し、私の『日本殺人事件』が双葉文庫の推理作家協会賞全集の一冊として、再刊される時、最初の「風」が吹いた。その本の解説中で、ガリヴァー日本上陸を記念したお祭りが毎年、横須賀市(私の生地・現在の居住地でもある)で催されているという記述があり、その事実関係を確認するために、編集部から横須賀市役所に連絡したところ、応対した職員から、「確かにガリヴァー祭りは開催されている。ガリヴァーのことを書いている作家がいるのなら、ぜひお会いしたい」という打診があったというのである。
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