この本が出版されて以降、ミャンマーの民主化は一段と進みました。かつては軍事政権によって囚われの身となっていたアウンサンスーチーさんが率いるNLD(国民民主連盟)は、二〇一五年に実施された総選挙で圧勝。遂に政権を取ったのです。まさに歴史は動いています。
そしていま、新たに「世界を変えた女性」を選ぶとしたら、ドイツのアンゲラ・メルケル首相が入ることは間違いないでしょう。
二〇一五年夏、ヨーロッパには、シリア難民を中心とする中東からの難民が押し寄せました。シリアからトルコを経て、バルカン半島を北上。難民たちはEUを目指します。入り口はハンガリーです。一九九七年に発効したダブリン協定で、EUに入ってきた難民は、最初の国で難民申請することになっています。難民の申請を受けた国は、とりあえず無条件で受け入れなくてはなりません。ハンガリーはこれを嫌い、難民たちを国境で阻止しました。いったん国境を越えてハンガリーに入った難民は受け入れざるをえないので、そもそも国境を越えないようにバリケードを設置したのです。
この様子を見かねたメルケル首相は、ハンガリーで足止めされていた難民全員をドイツが引き受けると宣言したのです。その結果、二〇一五年だけで約一一〇万人もの難民がドイツに入ったのです。
ドイツは、難民申請をした人たちに住む場所を与え、生活費の面倒もみます。それだけの待遇を保証してくれる国ドイツ。そのためには莫大な国費が必要となります。キリスト教徒が圧倒的なドイツにイスラム教徒が大挙して入ってきます。宗教や文化の摩擦もあるでしょう。それでもメルケル首相は、国内での反対を押し切って、人道的立場から受け入れを決断したのです。
ここに現代版「鉄の女」を見る思いがします。
その後、二〇一五年一二月三一日の大晦日、ドイツのケルンで、難民たちと思われる北アフリカ系などの男性集団によって、多数のドイツ人女性が性的嫌がらせを受ける事件が発生。難民を受け入れたメルケル首相を批判する声が高まりました。
また、二〇一五年にドイツに入国した一一〇万人の難民のうち、一三万人の行方がわからなくなっていることがわかりました。
こうしたことから、メルケル首相の旗色は悪いのですが、困っている人がいれば助けるのは当然のことと決断し、世界を動かす。メルケル首相こそ、「世界を変えた女性」でしょう。
これからも、「世界を変えた女性」は続々と誕生することでしょう。そして、その中には、この本を手に取ったあなたが入るかも知れないのです。
二〇一六年三月
(「文庫版あとがき」より)
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『赤毛のアン論』松本侑子・著
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