- 2014.06.03
- 書評
「パターン」から創造力が養える!?
文:佐々木 紀彦 (東洋経済オンライン編集長)
『インサイドボックス 究極の創造的思考法』 (ドリュー・ボイド、ジェイコブ・ゴールデンバーグ 著/池村千秋 訳)
ジャンル :
#政治・経済・ビジネス
日本にはイノベーションが必要だ――そんな提案をわれわれは飽きるほど聞かされているが、状況は一向に改善していない。なぜだろうか。
その理由は単純。多くの日本人が「イノベーションは、天才のひらめきによって生まれるもの」と思い込んでいるからだ。「どうせ私に斬新なアイディアなんて降ってこない」と最初から諦めてしまっている。他人任せなのだ。
しかし本書は、そうした「イノベーション才能決定論」を一蹴する。創造的な商品が生まれる過程には共通のパターンがあり、その手順を学べば誰でも“創造的”になれる、というのだ。しかも創造は、枠をとっぱらって自由に発想するよりも、ある制約の中で考えたほうが生まれやすいと喝破する。何かと「型」が好きで、職人的にのめり込みがちな日本人にとって、馴染みの良い考え方と言えるだろう。
コロンビア大ビジネススクールの教授であるジェイコブ・ゴールデンバーグと、イノベーション・コンサルタントのドリュー・ボイドは、古今東西の数100もの画期的と呼ばれる「イノベーション」が生まれた過程を実際に調べてみた。すると、どの「イノベーション」も天才のひらめきによって生まれたのではなく、凡人たちが「制約の中」つまりインサイドボックスで徹底的に考え抜いて生まれたものだということがわかってきた。
そしてこれらの制約の中からイノベーションが生まれた過程は、5つの方法論にほぼ収まるということがわかったというのだ。
その5つの型を軽く紹介してみよう。
1つ目は、引き算。つまり、シンプルにするということだ。その典型例が、ウォークマンである。それまでのカセットレコーダは、大きすぎて持ち歩きが大変だった。そこで、ソニー創業者の井深大が「飛行機で音楽が聴ける携帯機器がほしい」とリクエスト。そのニーズに応えるべく、スピーカーと録音機能を取り除くことで生まれたのがウォークマンだった。
2つ目は、分割。ある商品がもつ複数の機能を分離してしまうということだ。たとえば、テレビのリモコンは、テレビ本体に付いていた、チャンネル変更、音量調整などの機能を切り離したことによって生まれた。
3つ目は、掛け算。ある商品のもつひとつの要素を増やす手法だ。わかりやすいのが、2枚刃髭剃りである。有史以来、人間は1枚の刃で髭をそってきたが、1971年にジレットが史上初の2枚刃髭剃りを発売。これは画期的なイノベーションだった。ただ刃の数を増やすだけでなく、2枚目の刃の角度を1枚目と変えることにより、かつてない深剃りを実現した。
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