リンクのクラブ室の前でサッカーボールを蹴っていた小学生。それは、名古屋から新横浜に練習に来るようになったばかりの小塚崇彦君でした。
私がそれよりも以前、早稲田大学のフィギュアスケート部に所属していたときの監督が、お父様の小塚嗣彦さんだったので、「息子さんもやはりスケートをやるんだな」と自然な感覚でした。
親でありコーチである関係性は、非常に難しいだろうというのは、私の身近にいた佐藤有香さんを見ていても感じていたので分かりました。本の中で、小塚選手も「父と比べられたりするのは、うれしいことではなかった」と言っています。世界でも素晴らしい活躍をした選手が父であり、その後を継いでいくのがある意味運命だった彼にとって、周りからの期待を自分の中で整理するのが困難な時期もあったに違いありません。
高校のスポーツクラスで出会った先生や友人によって、小塚君は少しずつ変化していく――。「環境で人は変化する」、それを繰り返し言うことで、そこに至るまでの苦悩がどれほどか、言外に表れています。きっと、誰にも見せていない幾多の葛藤があったはずです。
変貌そして進化、それがこの本の中で描かれる小塚崇彦というひとりのスケーターの肖像です。
『ステップ バイ ステップ』の名の通り、その成長はひとつひとつ表れていると思います。一気に成長するタイプの選手もいますが、彼の場合は、いろいろなものを見て、吸収し、選手としてどう生きていこうか、今、その答えを出しつつあるところにいます。
「練習をしていても、自ら積極的に意味を理解し、取り組むのと、ただ言われたとおりにやるのでは、練習の中身が違うんだ。自分から取り組まなければ、ほんとうの練習にはならないんだ」
変わり始めたのは、ここに気付いた高校生の頃からでしょう。この頃同時に、父親への思いも変わっていきます。「父のことを言われても、あまり気にならなくなった」。
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